ranma 1/2

□或る人形の恋
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*パラレル


今日も朝日が差し込む部屋の中で、一番最初に目に映ったものは、アンティーク調の丸鏡。

そこにはあたしがピンポイントでちょうど映っている。

藍色のショートヘアに、ブルーのワンピースのあたし。

毎朝あたしは鏡の中のあたしに、おはよう、って言う。心の中で。

だってあたしは、喋れない。

あたしは、人形。



「やあ、おはよう。朝が来たよ」



おはよう、おじいさん。

あたしの顔を覗き込んで微笑む老人に、あたしは心の中で挨拶を返した。

このひとが、あたしを作った。

いつ作られたのかはわからない。

けれど初めてあたしがこのひとを見た時には、黒々とした髪が素敵なハンサムな若者だったのに、今はこんなに白髪が混じったおじいさんになってしまったのだから、きっと大層な時間が流れていたんだと思う。

人形のあたしには、時間なんて関係ないけれど。



「今日はよく晴れているよ。見えるかい?」



そっと抱き上げられて、あたしの身体は窓枠に乗せられた。

空は本当にきれいに晴れていた。雲一つなくて、眩しいくらいに明るくて。隣にいたおじいさんが目を細めた。

あたしには名前が無い。それに、おじいさんは人形売りなのに、あたしのことだけは決して店頭に並べようとしない。

おじいさんはあたしを娘か孫みたいに可愛がってくれてる。あたしのことは誰にも渡さないと、いつも言ってくれてる。



「…君がほんとうの人間だったら、どんなにいいだろう」



おじいさんはいつも、少しだけ切ない目でそう言う。ずっと昔から、変わらない目で。

いつしかあたしも、人間に憧れを抱くようになった。窓の外で遊ぶ子供たち、身を寄せ合う恋人達。

動けるって、すごい。

あたしも遊んでみたい。あたしも恋をしてみたい。

動かない身体を必死で動かそうとしながら、もう何十年もそんな憧憬にとらわれてきた。

…人形のあたしに、何故心があるんだろう。

他の人形にはないのに。

心があるのに、動けない。それがつらい。願うばかりで何もできない、そんな状況が。





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