ranma 1/2
□ポーカーフェイス
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「ねえ、乱馬。トランプしよう」
あかねがきらきらとした目でそう言うと、乱馬はあからさまに嫌そうな顔をした。
「─…おい。おめー、俺が苦手なの知ってるだろ」
乱馬が不貞腐れて言えば、あかねは思わず可笑しそうに笑う。
あの博打王キングとの熾烈なババ抜き対決を思い出して。
彼はババ抜きがてんで駄目だ。小学生並み、あるいはそれ以下に。
「いいじゃない。手加減してあげるから」
「嫌だね。絶対にやんねーぞ」
「へええ?」
あかねは腕組みすると、寝転がる乱馬を威圧感たっぷりに見下ろした。
見下されたような気がして、乱馬はますます怪訝そうな顔になる。
「乱馬くんは、あかねちゃんに負けちゃうのが怖いんだあー?臆病者だなあ、怖がりさんだなあー」
挑発するようにそう言ってやれば、単純思考な彼は十中八九──確実に頭に血が上ることを、彼女はよく心得ていた。
「誰がおめーなんか怖がるかってんだっ。よーし、そこまで言うならやってやろうじゃねえかっ」
鼻息も荒く腕をまくり、どっかと腰を下ろす乱馬を見て、あかねは小さく噴き出した。
──本当に、単純なんだから。
あかねがカードを切り始めると、怪訝な顔で何事かを思案していた乱馬がふと、にやりと不敵に笑んだ。
「なあ、あかね?」
「─…何よ」
含みを持たせた声色になんとなく嫌な予感がして、あかねは乱馬と目を合わせずにカードを配る。
「折角だからよ、何か景品をつけようぜ」
「……はあ?」
胡坐をかいてカードを数える乱馬を、あかねは怪訝な顔で見遣った。
「勝ったほうが、負けたほうに何でも命令できる。なんてどうだ?」
「なによそれ。馬鹿みたい」
あかねは鼻で笑ってしまう。どうせ勝つのは自分なのに、とタカをくくっているのだ。
すると乱馬が眉を吊り上げた。
「おや?それとも、あかねちゃんは自分が負けて、乱馬くんの言いなりにされちゃうのが怖いのかなあー?」
さっきあかねが乱馬をからかったように、乱馬も小馬鹿にしたような口調で言う。
案の定、似たような性格のあかねもまた、顔をさっと赤らめて反論した。
「あんた、そんな大口たたいていいの?いいわ、受けてたとうじゃない。…その代わりあたしが勝ったら、とんでもない命令してやるんだから!」
「へっ、その意気でなくっちゃ」
今度は乱馬があかねを見て不敵に笑う。──本当に単純な奴、と。
「今回は負けられねえな」
「あたしだって。あんたみたいな馬鹿に負けたら、何を命令されるかわかったもんじゃないわ」
「誰が馬鹿だっ。─…よーし、今回は本気出していくぜ!」
「ふんっ。あんたの本気がどれほどのものか、見せてもらおうじゃないの!」
そしてふたりは、瞳にそれぞれ闘志を燃やしながら、トランプに手を伸ばした。
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