ranma 1/2
□零れ落ちる記憶
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暑くて堪らない真夏の日の夕方だった。
俺はあかねと一緒に、かすみさんに頼まれたおつかいを済ませて、商店街からの帰り道を歩いていた。
「今年はほんとに暑いわね。猛暑だわ」
そう言いながら、薄いワンピースの胸元をパタパタとするあかねにどきりとする。
…こいつ、絶対無防備すぎる。
いつも「色気がねえ」とか言ってるけど。
本当は誰よりも色気があって、かわいい。
…まあ、面と向かっては言えねえけどな。
三年に進級して、晴れて恋人同士にも進級した俺たちの関係。
だいぶ牽制にはなってるはずだけど、いかんせんあかね本人が鈍くてお人好しの為に無防備で、まだまだあかねを狙う男共は多い。
ほら、そうやって。
汗で光る首もととか
暑さで舌出したりとか
ぼんやりした表情とか
無防備に晒すなよ─…。
「……ま?乱馬?」
呼びかけられてはっとすると、あかねが少し心配げに顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?暑さにやられちゃったの?」
ずっと無言だったから、変に思われたんだろう。俺は笑いながら首を横に振った。
「…ああ、大丈夫だ」
かわいいあかね。
いつもそうやって、俺のことを心配してくれる。
でも、ぶっちゃけ心配なのは俺のほうなんだよな。
「…そう?ほら、具合が悪かったら、夜の花火に行けなくなるかなあって…」
あかねはぼそぼそと、最後のほうは聞こえなくなるくらいに小さい声で囁いた。
俺はからからと笑って、あかねの手を繋いだ。
「大丈夫だよ。約束しただろ?一緒に見に行くって」
あかねは安堵の笑みを浮かべて頷いた。
そうやって、あかねはいつも俺の中に蟠る不安を払拭してくれるんだ。
俺の好きな笑顔で。
けれど。
このときの俺たちは知らない。
幸福は、築くのは時間が掛かるけれど
壊すのはあっという間なんだってこと
まるで砂時計の砂みたいに
この指の間からさらさらと
零れ落ちてしまうってこと
─…まだ、知らない。