ranma 1/2

□有効的活用法
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──今日も鏡を見てみた。まじまじと見てみた。そして、見なければ良かったとまた後悔した。

若い頃にはあんなに張りがあった肌が、今では皺だらけで。艶々してた髪は真っ白になってしまって。鍛えてたはずの足腰も、もうすっかりガタガタだった。



──はああ。

またひとつ、ため息をついた。老いることは自然なこと。普通の人間には、それに抗うことは出来ない。

──そう。普通の人間、には。



「おーい、ばあさん!腹減った、メシメシー」



どたばたという慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、部屋の戸が開けられて威勢のいい声が響いた。

あたしは鏡越しにその人物を睨み付ける。



「ばあさんは余計よっ!!」



鏡の向こうで、その人物がにやりといたずらっぽく笑った。



「なんだよ、また鏡見てたのか?…無駄無駄、寄る年の瀬には勝てねえよ」



そう言ってベッドにぼふっと座ったのは、あたしの旦那様、早乙女乱馬。

ちなみに、年齢はあたしと同じ六十五歳なのだけれども。

──その姿は、十六のときの少年のまま。



そう。ここに、例外がいる。

この変態は、ある意味では老いに抗うことが出来る人物なのである。







高校二年の夏。

中国に渡った乱馬はあの呪いの泉を訪れ、水をかぶると女に変わる変態体質を無事治して来た。



それからあたしたちは高校卒業を機に結婚して。双方の親と自分たちの意思の下、二人で道場を継ぐことになった。

男の子がふたりと女の子がひとり生まれて、あたしたち家族はとっても賑やかになって。

とても手が掛かったけれど、幸せいっぱいの毎日だった。



けれど子供たちが大きくなっていくにつれて、あたしは漠然とある違和感を感じていた。

乱馬が何故か時々ものすごく若返ったように感じられるときがあった。

同い年だからいい年した大人のはずなのに。

まるで出会った頃の乱馬がそのままそこにいるような、そんな感じのすることが時々あったのだ。



そして子供達が十代も終わりに近づく頃になると、その違和感はさらに大きくなっていった。

そしてあたしは漸く、あることを見落としていたことに気づいたのだった。



乱馬が入った泉は、男溺泉。かつて、若い青年が溺れた泉。

その泉に入ったものは皆、水をかぶると若い男になってしまう。



──「若い男」に、なってしまう。

つまりどんなに年をとっても、水さえかぶれば、乱馬はその肉体を若返らせることが出来るということなのだ。







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