ranma 1/2
□子ども
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朝夕の冷え込みが厳しくなってきた。
そんな矢先に頼りだった石油ストーブが運悪く壊れてしまい修理に出すことになってしまった。
炬燵以外身体を温めるものはないので私と乱馬はぴったりと寄り添って狭い炬燵におさまり、隙間風に身震いしている。
「ったく。さみーなあ」
「へくしゅっ」
隙間風のせいか底冷えがしたかと思うとくしゃみが出て鼻をすんと啜ると、風邪ひいたんじゃねえかと彼は隣で眉をひそめた。
「風邪なんかひいてないわよ」
「へっ、洟垂らしてやがるくせによく言うぜ」
「うるさいわねー、……へくしゅっ」
「ほれ見ろ、言わんこっちゃない」
炬燵から這い出て乱馬は部屋の隅に置かれた大振りの褞袍(どてら)に手を伸ばした。
お父さんが出掛ける前に置いていったものだ。
私の肩に掛けてくれるのかと思えば、自分がさっと羽織ってしまったものだから思わず呆気にとられる。
「なんだよ、その目」
「……何でもないわよ」
「不満げじゃねえか」
にや、と口角が含み笑いを持たせてゆがんだので私はほんの一瞬背筋に寒いものを覚えた。
「独り占めしやがって、とでも思ってただろ」
「別にそんなこと」
「へっ、安心しな。こーするんだよ」
なにが、と口を尖らせて振り返ろうとした矢先に寒々しかった背が温もりに包まれ、私は思わず身を固めてしまった。
褞袍の合わせを私のお腹の辺りで交差させて、幼稚な私の反応に堪えきれなくなったかのように乱馬は小さく吹き出した。
「ち、ちょっと、何がおかしいのよ!」
「だーっておめー、警戒しすぎだもん」
「あんたが急にこんなことするからじゃない!」
「いや、今なら誰もいねーからチャンスかと思って」
しれっとした顔であさっての方向をむき口笛吹く彼を後ろ手に恨みがましく見上げる。
「離してよ、もうっ」
「いいじゃねえか、さみーんだからもうしばらく」
じたばたと暴れ出すと抱く腕の力が篭って拘束が強まったので私は観念して肩を落とした。
煩い心臓の音が聞こえてしまわないかだけがただ気にかかった。
「……あんたってさ、二人きりになるといやに積極的よね」
「俺はいつでもそのつもりだけど?」
含みを持たせた言葉のせいかお腹に回された手から食指が動き始めるかのように思えて私は思わず身構えてしまう。
面妖な顔をしてちら見した私を見て何を思ったのか乱馬は小さく舌を突き出してみせた。
「ばーか。なーに勘違いしてやがんでえ」
「なっ、勘違いしてなんか!」
「図星って顔してるくせに、よく言うよ」
ぶわははは、と大口開けて笑う彼にやれやれと肩をすくめながらも内心安堵して胸をなでおろした。
大丈夫、まだ大丈夫だ。
まだ私達二人はこのままで、子どものままでいられる。
end.