ranma 1/2

□記念写真
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──初春の昼下がり。公園に根を張る色づいた糸桜の枝がさわさわと春風に揺れ、薄紅の花びらを季節外れの雪のように宙に散らしていた。

その一際頑丈な枝の幹に近いところに、一組の少年少女が額を突き合わせるかのようにして座している。

地上からかけ離れたその高さの枝まで登ることは常人であればおよそ不可能だっただろうが、格闘術を嗜み並外れた身体能力を有するこの二人にとっては造作もないこと。

一見すれば、舞い散る雪のような花嵐の中で近く身を寄せ合う年若き少年少女の組み合わせは、思わず溜息の零れるような、まるで一枚の額に収まった絵のような光景であるはずなのだが。



「笑え!」

「ふんっ。誰があんたの言うことなんか」

「だーかーら、笑えっつってんだろーが!ほんっとにおめーはかわいくねーな!」

「なんですって!」



地上から振り仰ぐ面々が盛大な溜息をつくのも無理はなかった。

もう小一時間ほどに渡って、こうしてあの少年少女は額を突き合わせ、まるで噛み付くかのように延々と蒟蒻問答を繰り返している。

この有様では情景の美麗さにというよりも、別の意味で溜息が出るといったものだ。少女の父が頭上の二人に向かい嘆かわしく声を上げた。



「乱馬君にあかねぇ〜、こんな日くらいはせめて喧嘩はなしに・・・」

「お父さんは黙ってて!」



般若の形相で冷たい視線をくれて寄越した娘に父はひっと肩を竦める。終いにはおいおいと膝を抱えて愚図り始めた父を長女がやんわりと慰めた。

全くどいつもこいつも、と呆れ顔で嘆息する次女。カメラを首元から下げて、なびきは手でメガホンを作り妹に向かって声を張り上げた。



「ちょっとー。記念写真、撮んなくていいの!?」

「誰がこんな奴と写真なんか!」

「そんなこと言わないでさ、一枚だけでもにっこり笑って撮ったらいいのに。もうその制服着ることもないんだから」



憮然とした表情であかねが唇を尖らせる。

確かに姉の言う通り、空の色をうつしたこの制服を纏うのも、もう今日で終いだ。



卒業式を終えて家に帰ると、記念写真を撮ろうということになり半ば強引に公園に連れてこられた。そこに見事な枝垂桜が咲いているからだった。

しかしいざ撮ろうと言う時になって、乱馬とあかねがいつもの如くお決まりの口論を始め、周りに構わずにどんどん口論に拍車がかかっていく。

──もとを糺せば、緊張で微かに顔の強張ったあかねを思い切り笑わせてやってくれという彼女の父の願いを、乱馬が間違った遣り方で叶えてやろうとしたことがそもそもの根端。

阿呆な顔をして意地でも笑わせようとする少年のしつこさに、堪忍袋の緒の切れた少女が平手を掲げるまでそう長くはかからなかった。



「ったく、かわいげのねえ女。こんな時ぐれえ、ちったあ愛想のひとつも振り撒けってんだ」

「ふんっ、どうせあたしには愛想のかけらも無いわよ。どのみち、あんたなんかに振り撒く愛想がもったいないわ」

「んだと、このずん胴女!」

「ずん胴は関係ないでしょ!優柔不断男!」



ああいえばこういう、まさに意味を成さない蒟蒻問答の繰り返し。さすがに辟易としてきた少年は、言っても聞かないならば、と遂に次の一手に出た。



「・・・これでどうだ!」

「きゃっ、何すんのよ!あ、あははは!!や、やめてよ!」



乱馬があかねの身体を擽り始ると、彼女は身を仰け反らせて高らかに笑い声をあげた。

怪力を持つ彼女もそれを遥かに凌駕する彼の力に適う筈も無く、逃げるすべも無く脇腹を擽られて息も絶え絶えになって笑う。

シャッターチャンスとばかりになびきがカメラを構えると、乱馬がしたり顔でピースサインを作って見せた。

──しかし威圧的に少女に視線を戻した瞬間、まるでブリキ人形か何かのように不自然な動きでその身体がぎしりと硬直した。



「はーっ、はー・・・ば、ばか・・・」



目尻に涙を浮かばせ紅葉の散った顔で彼を睨みつける少女の脇腹をまさぐっていた手を、パッと離して万歳でもするかのような格好になる。

調子に乗っていて気がつかなかった。いかに際どい行動に出ていたのかを。少年が眼下に恐る恐る視線をくれてやると、少女の姉が北叟笑んでカメラを少しだけ掲げてみせた。



「おかげでいいショットが撮れたわよ」

「ば・・・っ!そっそれ、絶対現像すんな!!」

「えー?遠すぎて聞こえないわねえ」



言葉を接ごうとしたとき背後に殺気立った気配を覚えて乱馬は再び身を硬直させた。

がしり、と肩を物凄い力で掴まれるも、心身共に縮み上がった彼にそれを振り払う勇気は残されてはいない。



「よくもあんなスケベな真似を・・・!」

「ま、待てっ、あれは事故だ──!」








後日出来上がった写真によってまた部外者を含めた新たなる諍いが勃発することになるが、許嫁の少女の凶行によって瞼の裏に星を飛ばしている少年が知り得るはずもない。







end.
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季節外れもいいところです。

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