ranma 1/2
□parhelion
1ページ/9ページ
不思議な世界だと思った。
見上げる空の位置がこんなにも、果てしなく高い。
けれど、なぜあの灰色の空間が空だと言うことを知っているのかも、わからない。
自分が世界というところに属していると知っていることも、不思議でたまらない。
水溜まりに姿を映してみると、あたしの身体は真っ白だった。
白いふわふわとした尻尾が意図もせずに揺れていた。
琥珀色の自分の目をじっと見詰め続ける。
ぽたぽた、と水面に雫がたくさん落ちて、波紋が広がるのを見ていると、心の中にひとつの言葉が落とされた。
──乱馬。
還りたい。
あのひとのところへ。
心の中の水面に静かに波紋が広がっていく。
還りたい。
還りたい。
逢いたい。
逢いに行かなければならないひとがいる。
還らなければならない場所がある。
何の記憶もないのに、そんな思いが突如として沸き起こって、空っぽのはずの心を急き立てた。
身体が勝手に動いて、自分でも行き先のわからない場所へと脚が歩み始める。
灰色の空を見上げながら、何の記憶ももたないはずなのに突然、胸を抉られるような懐かしい痛みに見舞われた。
あの空にあたしが居たような気がした。
あの空から何かを見下ろしていたような気がした。
それこそ胸を抉られるような何かを。
──まだ泣いてる。
空が泣いてる。
あたしが泣いてる。
あのひとが泣いてる。
足元の水溜まりたちだけが、音のない世界で泣き声を上げていた。
.