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□かみさまのこどもたち
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【かみさまのこどもたち】



 龍神と婚姻を結んだ娘がいた。
 娘はふつうの人間だったが、過去にただならぬ縁をつないだ龍神のことが忘れられず、十八の年、神々の住まう異世界へ会いに行く。
 龍神はこれをひどく喜び、はるばる会いに来た娘をことさら愛しく思い、すぐに求婚をした。
 娘は龍神の意を受け入れ、二人は晴れて夫婦となった。

 龍神は娘との間に七人の子をもうけた。
 四男三女の子宝である。いずれも美しく、賢い子達であった。
 年頃になると、子供達は両親からある選択を迫られた。

「人間界か、龍の棲む世界か、いずれかを選びなさい。どちらを選んでもかまわないが、一度選んでしまえば決して後戻りはできないよ」

 父神はこうして子供達に二つの世界を天秤にかけさせた。
 そして、人間界を選べば人間に、龍の棲む世界を選べば龍に、子の姿を変えてやった。
 ただしこのまじないは一度きりしか使えず、たとえば人間に姿を変えた後で、やはり龍になりたかったと後悔しても、取り消すことはできない。
 子供達は悩んだ。しかし最後には自分達の意思で進むべき道を決め、他の道を捨てた。
 こうして六人の子供達が、龍神と娘のもとから巣立っていった。
 ーーそして末の子にも、決断の時が迫っていた。

「どうしても、どちらかを選ばなくてはいけないのですか?」
「そうだよ。どちらかを選ばなくてはいけない」
 末の子は息子だった。切りそろえた髪がまだあどけなさを残しているが、人間の年齢で数えればもう十分ものの分別はつく年頃だ。
 難しい顔をしている息子に、龍神は優しく語りかける。
「そなたの兄や姉も、そうして悩んでいた。しかし、いずれどちらかを選ばなくてはいけないのだ。ーー分かるね?」
 末子は神妙にうなずく。
 異なる二つの世界に同時に生きることはできない。それは兄や姉から言い聞かされてきたことだ。
「今までに三人が人間になり、三人が龍を選んだ。そなたはどちらを選ぶ?」
 末子は人間になった兄姉達を思う。年をとるのはやけに早いが、その暮らしぶりはなかなか楽しそうだ。
 龍になった兄姉達は、いつまでも変わらない姿をしている。龍王から譲り受けた小さな川を治め、のんびりと暮らしていた。
 さて、どちらの暮らしが自分にあっているだろう。
「焦らなくてもいいよ。まだ時間はあるから」
 そう言って母は笑った。
 その年を感じさせない笑顔がかわいらしくて、末子は決心した。

「僕は龍になります。そして川の主になって、いつか母上みたいにかわいい人間の娘を見いだして、妻に迎えます」

 龍神と娘は仰天し、顔を見合わせた。どちらともなく笑い出す。
 血とは争えないものである。

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