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□ランプ
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【ランプ】
秋山は盛大に溜息をついた。
ゲーム一日目が終了し、振り当てられた寝室で必勝法を編み出していた最中に突然訪れたチームメイト、馬鹿正直の神崎直。
クマのぬいぐるみを抱きしめた彼女が目をうるませて秋山を見ている。
「一人じゃ寝れないって、お前は幼稚園児か?」
とんだお子様だ、と二度目の溜息。
「だって怖いんです。ゲームがどうなっちゃうのか、不安で眠れなくて……」
ぬいぐるみに顔をうずめる神崎直。そうしていると本当に幼稚園児のようだ。
「俺を信じろと言っただろう。俺達は絶対に勝つ。だから何も心配することはない」
それでも彼女は浮かない顔をしている。やれやれ、と秋山は頭を掻いた。
「しょうがない。そんなに不安なら、好きにしろ」
途端に直の顔がぱっと輝いた。
「いいんですか?」
「どうぞお好きなように。ソファで寝ようが、ベッドで寝ようが、俺はかまわないから」
秋山は椅子に深く腰掛け、長い脚を組む。
「秋山さんは寝ないんですか?」
「ああ。まだ考えたいことがある」
彼はコーヒーに口を付けた。
直はソファとベッドをしばらく見比べてから、遠慮がちに秋山を振り返った。
「ソファは秋山さんが寝るには小さすぎますね。私、ソファを使った方がいいですか?」
「いいよ、べつに気にしなくても。俺は多分寝ないから」
「だめですよ。少しは寝ないと明日に響きますよ」
「そういう君こそ。お子様は早く寝た方がいいんじゃないか?」
ふふっと笑われ、直は頬を膨らませた。
「私、お子様じゃないです!」
「ふうん。ま、そういうことにしておこう」
「秋山さんってたまに意地悪ですねっ」
馬鹿正直は肩を怒らせながらベッドに向かった。その背中を追いかけるように一言。
「お嬢さん、添い寝はいらないかな?」
「結構ですっ!」
毛布を頭から被って、彼女は動かなくなった。まもなくして寝息が聞こえてきた。
「やれやれ。とんだお子様だ」
コーヒーのお代わりを注ぐついでに、毛布の中を少し覗いてみる。
安らかな寝顔。口が半開きになっていた。自然と彼の口元がゆるむ。
「おやすみ、我らがリーダー」
明日もよろしく頼むよ。
頭を撫でてやり、ベッド脇の明かりを消した。