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□ではさようなら
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【ではさようなら】
「人間である以上、人間としての生を捨てるわけにはいかない」
守り神をなくした森からより緑豊かな新天地へと旅立つサンが、ともに行かないかと誘ったところ、彼は首を横に振りそのように言った。
「あのタタラの村で骨を埋める覚悟か?」
サンが問うと、彼はうなずいた。思いもよらぬ答えに彼女は憤り、悲しんだ。
「なぜだ。お前だけは、奴らとは違うと信じていたのに」
「私も人間だ。里や村で暮らし、人とかかわらなければ、生きてはゆけないのだ」
自由な山犬であるそなたの足手まといになりたくはない。
そんな本音を隠してアシタカは寂しそうに笑った。
彼の思いが彼女に伝わることはなかった。サンは裏切られたと激昂し、深く失望し、彼からもらいうけた玉の小刀を打ち捨てた。
「お前も人間だ。私が何よりも嫌いな人間なんだ。ーー人間ごときを信じようとしたこの私が愚かだった!」
サンは彼に背を向け、呼び止められても振り返ることなく駆け去っていった。
仲違いした二人は離ればなれとなり、以降二度と再び出会うことはなかった。