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□カードゲーム
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【カードゲーム】



 年の瀬も押し迫る師走の夜。あいかわらず殺風景なクラブ棟では、食べ物などを持ち込み、ささやかな忘年会がとり行われていた。
 こたつを囲んでトランプに興じるのは、りんね、桜、翼、鳳の四人。現在連敗を喫しているのは言わずもがな、カードゲームにめっぽう弱い鳳だ。
 ぶつぶつ愚痴りながらも何度目かの買い出しから帰還した彼女は、異様な光景を目の当たりにする。
 こたつをはさんで向き合っているりんねと翼が、カードを手にしてたがいをにらみ合っていた。
 その必死さといったら、まるで火花が散りそうな勢いだ。
「おかえり、鳳」
 膝で眠る六文を撫でてやりながら、場にそぐわないのんびりとした声で桜がいう。
「あの二人、今回は随分真剣なのね」
「うん。何かを賭けてるみたい。でも私には教えてくれないの」
 桜は眠たそうに目をこする。

「約束は違えるなよ、六道」
「分かってる」
 二人の少年は手持ちの札から視線をはずし、相手をにらむ。
 ーー勝った方が桜を家に送る。
 なんのことはない賭けだ。けれど二人は真剣だった。
 一秒でも長く好意を寄せる相手と一緒にいたい。その気持ちはどちらも同じだから、引くに引けないのだ。
「さあ引け、六道!」
 翼のカードは二枚。りんねは覚悟を決め、そのうちの一枚を引いた。

 頬にかかる夜気が冷たくて、桜は目を覚ました。
 寝ぼけ眼に映ったのは、街灯に照らされた赤い髪と赤い耳。小さな声で呼ぶと、彼はちらりと振り返っていった。
「目が覚めたか?」
「うん。家まで送ってくれるの?」
「ああ」
「そう。あ、ごめんね、重いよね」
 遠慮して背中から降りようとする桜。そんな彼女をりんねは押しとどめる。
「いや、重くなんかない。このままでいいから」
「でも」
「いいんだ。この方があったかい」
「そう?」
「うん」
 少しだけ、りんねの機嫌が良いような気がして、桜は不思議に思った。
「六道くん、今日は楽しかった?」
「ああ。真宮桜はどうだ?」
「私も」
 彼の背中はあたたかくて心地良かった。
 勝利によって得たささやかな喜びを噛みしめるりんねの胸中を知る由もないが、彼女も同じ幸福を感じていた。

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