dedicates
□beside
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高校時代の共通の友人の結婚式に呼ばれて、乱馬とあかねは式場に向かうタクシーの中にいた。
この日に限って珍しくも寝坊してしまったあかねは車内でも未だ慌ただしく身繕いを続けている。
鏡を覗き込みながら顔にファンデーションのパフを叩き始めたあかねをちらりと横目に一瞥して乱馬がぼやいた。
「……おい、どこいじったって変わんねーよ。おめーみてえな凶暴女」
「いちいちうるさいわねっ」
お決まりの悪口にすかさず眉を吊り上げて、あかねは心底不愉快そうにフンっと鼻を鳴らしてみせる。
一方の彼は機嫌を損ねて肩をぷりぷりと怒らせる彼女の方には気もそぞろに、不機嫌そうに度々ちらちらと前方を見遣っていた。
どうにも癪にさわるものがあった。
三十代くらいの運転手が先程からずっと鼻の下伸ばして、身繕いにあたふたとするあかねを、バックミラー越しに事あるごとにちらちらと盗み見ていたのだった。
鈍感な彼女はそんな男の邪な視線にも気が付かず全く無意識のうちに無防備な行動をとり続けている。
──ああ、まただ。
今度こそ乱馬は思わず眉間に思い切り皺を寄せてバックミラーを睨んだ。
運転手は狩人が鷹を射るようなその険しい目付きにも気付かずに、やはり彼女に好色な視線を送り続けている。
あかねが屈んで靴の留め具をいじり始めたのだった。
なんとも覚束ない手つきで留め具を噛み合せようとするが、不器用な彼女にとってはたったそれだけの動作にも一苦労。
真珠色のミニドレスは背が大きく開いているため前に屈むと白く滑らかな生まれたての背が惜しげなく露出される。
どうやら視線での威嚇は効力がないらしいと見て乱馬はむかっ腹が立った。
自分という虫除けがすぐ隣に寄り添っていようとも悔しいことに彼の許嫁は男の好気の格好の餌食のようで、乱馬にはどうも気に食わない。
畜生、と乱馬は一言小さく呟くと唇を尖らせたまま自分もあかねに倣って身を屈めた。
不器用な許婚に救いの手を差し伸べてやるのだ。
「ほら、貸せ。お前不器用だから何度やっても無駄だよ」
「あんたって、ほんっとにいちいち嫌味よね」
大体いつも一言余計なのよね、などとぼやいて頬を膨らませながらもあかねがおみ足を乱馬の前に差し出す。
見事なまでの白さと脚線美に一瞬呆気にとられた乱馬だったが、見惚れてる場合ではないと思い立ち慌ててその細い足首に手を伸ばした。
踝の辺りにあるヒールの銀色の金具を二度失敗した後になんとか止めることに成功し、やれやれと身体を起こす。
すると今度はあかねが乱馬に透き通るような滑らかな背を向けて言い放った。
「ちょっと、このネックレスの金具もとめてくれない?さっきから噛み合わなくて」
「おめーは……ほんっとーに、底無しの不器用なんだな…」
余計なひと言で今度こそ唇を尖らせた許嫁に小突きを食らった彼だったが、内心は優越感に浸って満足げだった。
──へっ、ざまあみやがれ。
運転手の眉を下げた悔しそうな顔がバックミラーに過ぎり、思い知ったかとばかりに僅かにあかねとの距離を縮めてみせた。
end.
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五万打・ゆう様
(無防備なあかねに振り回される乱馬)