liar game

□Ave Maria
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「犯した過ちを懴悔するのです。御母マリアの御前で」


 手を拱きながら微笑む白い神父。世界が、白かった。微かに聞こえるオルガンかチェンバロの音色が、何処か気高くも物悲しく。


「…俺は…」

「貴方は罪を犯した。それを聖母に告白し、恩赦を乞うのです」


 ステンドグラスの向こう側から光が照り付け、真っ白な世界に色を添える。

 神父の口調は決して強要するようなものではなかったが、それでも何故か抗いがたいものを感じた。


「…俺は何故こんなところに…」

「罪人は皆此処へ来ます。罪を懴悔し、その心の内を吐露するべく」

「……」


 見上げると、穏やかな顔で微笑む聖母マリアのモニュメントが、直ぐ側から見下ろしていた。

 真っ白な、穢のない、その姿は、何処か自分の見知った少女を彷彿とさせた。


「…俺は、偶像崇拝どころか宗教自体、信じない」


 聖母マリアの頬に指を触れようとして、やめた。もう一度その顔を見上げた。穏やかだと、思った。


「高邁な思想にも興味はない。俺は、俺は……何かに懴悔したりはしない」

「何故?貴方には胸中に蟠るものがあった。だから今此処にいるのです」


 目を閉じて、モニュメントの指に触れてみた。触れたところからじわり、と微かでしかし確かな温もりが伝わってくる。


「…しかし、これもまた確かなことです」


 聞こえる声が次第に遠ざかって行く。指の温みはそのままに。


『聖母は神ではない。…ごく普通の人間、なのです…』


 次に目を開けた時、その指にはしっかりと温もりが残っていた。そして視界に広がる、愛しい少女の寝顔。


「…君なら、赦してくれるか…?」


 指を絡めて、彼女に問う。額に浮かんだ汗を拭い、再び目を閉じた。

 耳に残る、白の世界の残響は、少しずつだが確実に小さくなり、やがてすっかり聞こえなくなった。




end.

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