liar game

□涙霞を晴らすのは
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 彼女の涙が嫌いだった。いや、涙が嫌いと言うよりは、何かが彼女をそれ程までに苛み追い詰めているという事実を、嫌悪していたのかもしれない。

 泣いているのを見たくなかった。彼女が泣くと酷く苛ついた。


「泣くな。泣いても何も変わらない」

 
 騙され、傷付けられ、虐げられ、涙を流す彼女を幾度となく見てきた。微温湯に浸かるように平凡に生きてきた彼女にとっては、確かに逃避したくなるような環境だろう。

 それでも。こんなところで彼女を終わらせるわけにはいかない、目隠しをさせたままではいけない、そんな思いが自身を奮い立たせる。


「私、何の役にも立てなくて……」


 自分は無力だといって嘆く彼女。頼む、その言葉に逃げないでくれ。他の奴が何と言おうと耳を貸さないでくれ。

 君は決して、役立たずなんかじゃ、ない。


「いい加減泣き止め」


 泣かないでくれ。君は、そこで止まっているわけにはいかないんだ。

 このゲームは君のことを待ってはくれない。立ち止まっていれば置いて行かれる。そして、負ける。


「秋山さん、私……」

「君は何も心配しなくていいよ。安心しろ。だから今は、ゲームに勝つことだけを考えるんだ」

「…なんだか私、本当に秋山さんに迷惑ばかりかけてて…」

「…迷惑だなんて思ってない。寧ろ、君が必要なんだ」


 それでもきっと、君はまた何度でも泣いて立ち止まってしまうんだろうな。随分と強くはなったけれど、それでも君はまだまだ涙脆い。

 そして俺も何度でも、立ち止まった彼女のもとへ引き返していくんだろう。その涙を止めるために。君を奮い立たせるために。

 
「二人で勝ち進んでいくんだろう?君が居なくてどうする」


 だから、泣き止んでくれ。君が立ち止まってしまったら、俺も前に進むことができないよ。

 泣き腫らした目をした彼女が、ようやく顔を上げて、幾何かの元気を取り戻したように笑いかけてきた。





end.

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