liar game

□星の子守唄を贈ります
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 夜の散歩は好きだ。心地よい夜気が清々しく清涼とした気分にさせてくれる。仄かな街路灯の明かりは何処か落ち着く。

 
「やっぱり涼しくなりましたよね」


 直がそう言って、剥き出しの肩を庇うようにしたとき、秋山が無言で自分のパーカーを脱いでその肩に掛けてやった。

 ふわり、と秋山の香りと温もりの残るパーカーに包まれて、直の頬がうっすらと染まる。


「風邪ひくよ」

「…ありがとうございます。秋山さんは平気ですか?」

「俺はこのくらいでちょうどいいかな」


 秋山はそう言うと少し足早に前を進み出す。直は置いて行かれまいと慌てて足を動かしながら、内心くすっと笑みを零していた。

 彼なりの照れ隠しなのだろう、きっと。素直じゃない彼はこうして人の感謝の気持ちを向けられることをこそばゆく思っている。

 直のお気に入りの草原まで来ると、直は唐突にぺたりと地べたに足をついて正座した。不思議そうに首を傾げる秋山をしり目に、直は笑顔でその腿を叩く。


「秋山さん、ここに寝てください」


 キラキラと輝く笑顔で言われ、秋山は思わず顔をひくっと引き攣らせる。何を言い出すんだろう、この子は。この俺に「膝枕」?


「…い、いいよ」

「え〜、遠慮しないでください!ほら、一緒に星を見ましょうよ」

「…君って時々大胆だよな…」


 頭を抱えて天を仰ぐ秋山を笑顔のまま見詰める直。きっと彼女は知らないのだ。そんな時折の大胆な行動が、どれ程彼の理性を苛んでいるのか。

 ふうっと一息つくと、秋山は直の隣に腰を下ろした。そして心を決めると、その頭のいっさいの重心を、直の大腿に預けた。

 見上げてくる秋山の憮然とした表情に、直はふふっと笑い出す。そしてその手で秋山の頭をそっと撫ぜた。


「ほら、見てください秋山さん。星がすごくきれいですよ」


 夜空を見上げて歓声を上げる直の首筋や顎に目線を奪われ、秋山は心の中で大いに歎息する。星なんかに目が行くわけないだろ。この状況で。

 後頭部に感じる腿の柔らか味と温かさ、頭を撫ぜる手の優しさが、秋山に遠い遠い昔の懐かしい存在を想起させる。


『──深一、おやすみ──』


 その声を探し求めるように、秋山の瞳がゆっくりと閉じられていった。


「……秋山さん、おやすみなさい」


 耳元で囁かれた言葉が、心の奥底の懐かしい響きと重なり、秋山はうっすらと微笑んだ。





end.

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