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□何処にいても
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何処にいても、何をしてても、目であいつを追ってしまうようになったのは何時からだろう。
ずっと片思いしてた人の前ではにかむあかね、手合せの時の真剣なあかね、傷ついて泣くあかね。
全部全部、こんなにも近くで見てきた。何処にいても、何をしてても、目が離せなかった。
「何見てんのよ、乱馬」
「あ?おめーのことなんか見てねーよ」
「うそ、絶対見てた!あやし〜」
「だ〜〜しつこい!」
片想いから両想いに昇格して、こうして夫婦になって一緒に住むようになっても、俺の癖は治らない。
きょろ、と無意識にあかねを探してしまうんだ。何もかも目に焼き付けておきたい。目を閉じても色々なあかねを見ていられように。…今の、うちに。
「ねえ、乱馬…もしかして、目…」
「…心配すんなって。まだちゃんと見えてっからよ」
ごめん、あかね。俺、お前に嘘ついた。
本当は、もうあんまり見えねえんだよ。黒い塊みたいにしか見えねえ。お前の顔も、もうこんなに近くにいても見れねえんだ。
でも平気だよ。一生分のお前の顔、見てきたはずだから。目を閉じててもわかるんだよ。お前がどんな表情なのか。
「…泣くなよ」
「泣いてないわよ、ばかっ」
「泣くなって。ほら、俺ならここにいるから」
手を伸ばせばあかねの背に触れられた。柔らかかった。ほら、目が見えなくなったって、俺には聴覚も触覚も残ってるんだから。
「もう、あたしのこと、見えない?」
「そんなことねえよ」
「うそ。じゃあなんで目開けないの」
「…だって、目閉じてても見えるから」
五感の一つを失ったくらいで、お前を手放したりはしない。今まで積み重ねた時間のおかげで、俺はこんなにもお前の総てに対して敏感になれたから。
「あ、笑っただろ」
「え」
「なんだよ、外れたか?」
「……正解」
そうやって笑っててくれよ、あかね。俺ならここにいるから。何処にいても、何をしてても、ずっとお前のこと、見てるからな。
end.