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□偽られた終焉
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私はすっかり忘れていた。彼は嘘つきだったってこと。だから気が付かなかった。あの時のあの彼の言葉に、最大の大嘘が孕まれていたことを。
「これでようやく元の生活に戻れるな」
「はい!皆さんのことも救済できたし、私達も負債を帳消しにできましたからね」
「…よく頑張ったな」
「そんな!秋山さんがいなかったら、あたしなんてとっくに敗退してますから…」
「…とにかく、もう今日は戻って休めよ。久しぶりにゆっくりしたらどうだ」
「はい!…あ、秋山さんはどうするんですか?」
「俺?……俺も、今日は帰って思う存分寝るよ」
「じゃあ、また会えますか?」
「…ああ。きっとね」
どうしてあの時に彼の嘘に気が付けなかったんだろう。勝利に心酔していた私は、彼の様子を十分に注視していなかったのかもしれない。
数日経って、何度かけてもつながらない電話。押し寄せる不安に引き籠っていた時、あの偽弁護士から告げられた衝撃の事実。
「アキヤマは、巨額の負債を背負っていたんだよ。ナオちゃん、知らなかったの?」
「そ…そんな、だって秋山さんは全額帳消しになったって…!!」
「君の分はね。でも彼自身はどんどん負債を膨らましていっていたんだよ。アキヤマがどうなったのかは、…残念ながら分からないね」
秋山さん、あなたはやっぱり世界一の嘘つきです。また会えるって、言ったじゃないですか。もう大丈夫って。元の生活に戻れるって。
私だけ助かればいいと思っていたんですか?秋山さん。それじゃ意味がないんですよ。二人で一緒に事務局に勝つって言ってくれたのに。
「あ、あきやまさ…」
『また泣いてたのか?』
泣いても泣いても、いつも駆けつけてきてくれたあのひとはもう来ないの?
すべてを背負って、あなたはどこに行ってしまったの?
「会いたい…秋山さん…っ」
彼の携帯電話に電話をかけてもコール音すら鳴らなくなったのは、それから一週間後のことだった。
end.