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□愛を告げる前に
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 『決めた。俺、今日あかねに告白する!』


 それは本当に刹那の衝動的なもので、朝普通に起きて唐突に浮かんだ決意だった。

 何でいきなりなんの脈絡も無くそんなことを思い付いたのやら、自分自身でも解らない。

 まあ、きっとアレだな。風船と同じようなもんだ。膨らんで膨らんで、膨らみすぎて限界が来たみたいな感じ。

 というわけで、思い立ったら即実行に移すべきだと妙に神妙に独り頷きながら、俺は一世一代の勝負の幕をようやく上げることにしたのだ。







 「おはよう、乱馬……って、何?あんたどうしたの?」


 二階の廊下で、擦れ違いざまにあかねの腕を掴んだ。掴んでしまった。しかもがっちりと。

 必死の形相の俺を見て、あかねが不思議そうに首を傾げる。かわいい、こいつってこんなにかわいかったっけ!?

 緊張で意識がどっかに飛んで行きそうだ。あああ目が回る、頭が回る、音が回る……!


 「ちょっ、らん…!?」







 「…ヘタレ」

 「…悪かったな、ヘタレで」

 「いきなり廊下で白目剥いて倒れるんだもん。びっくりするじゃない」


 あかねのベッドの上で、俺はぼーっとする額に手を置く。あかねがやんわりとその手を退けた。


 「冷たいタオルあるから。冷やしたほうがいいわよ」

 「ぐえ」


 びちゃ、と水の滴るタオルが置かれる。蛙が潰されたような声を出すと、あかねが声を上げて笑った。

 あかねの手が俺の前髪をかきあげる。「ゴムで結んであげよっか?」とおどけるあかねを軽く睨んで、その手に自分の手を重ねてみた。


 「なあ、あかね」

 「ん?なあに?」


 世界中の時計が止まったみたいに感じた一瞬。後にも先にも、こんな瞬間にはなかなか遭遇出来ないだろうなあ。


 「結婚しよう」


 あかねの息が一呼吸遅れた。俺は…自分で言ったことが信じられなくて、ぽかんと口を開けたまま。

 ま、間違った!!!順番ちげーーだろっ!!!


 「うん、乱馬、あの…」

 「うわあぁぁ、情けねえ〜〜!!馬鹿馬鹿馬鹿野郎〜〜!!」

 「…乱馬?あんた大丈夫?」


 身をよじって苦悶していた俺は、はっと動きを止めてあかねを見遣る。後ずさろうとしたあかねの腕を、「待て待て!!」思わずまた掴んでしまった。


 「へ、返事!!」

 「え…?」

 「返事、まだもらってねーぞ!!」

 「だ〜か〜ら〜さっき、うんって言ったわ。聞いてなかった?」


 思考がフリーズする。

 どんだけ即答なんだよ、おい。嬉しすぎるぞちくしょう!!


 「おおおお前、俺のこと好きだったのか〜!!」

 「悪いっ!?しかもどもりすぎなのよっ!ホントに情けないわね〜」

 「う、うるせぇいっ!!仕方ねえだろ、う…ううう嬉しいんだから……よ」

 「乱馬」


 数え切れないほどこいつに名前を呼ばれてきたけど、この時ほど嬉しいって思えたことは無かっただろう。

 そう、情けなくも鼻の奥がじんとしてしまうくらいに。


 「俺も、あかねのこと……好きだ。ずっとそばにいてくれよ」






end.

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