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□一枚のブランケット
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 運が悪いことに、夕方から急に雨が降ってきた。どうやら台風が近づいてきていたらしいことをすっかり失念してこんな山奥まで来てしまったことに、乱馬とあかねはすっかり肩を落としながらまた一つ溜め息をつく。


 「あーあ、びしょ濡れだぜ…」

 「はぁ、本当に何でこんな日に山籠もりなんか…」

 「…お前は勝手についてきたんだろーが」

 「違うわよっ、お父さんにあんたについていきなさいって言われて、家から閉め出されたの!」

 「おいおい、こんな所で喧嘩してもなんにもなんねーぞ…」


 乱馬はぼそりと呟くと、目を細めて前方を見遣った。大雨で視界はこのうえなく悪かったが、その視界の先にぼんやりと洞窟らしきものが見える。


 「あそこに洞窟があるぜ。行ってみるか」

 「え?…よく見えるわね、あんた!馴れてるだけあって、目まで野生動物化してるのかしら」

 「…お前、地味に失礼だよな」


 益々肩を落とす乱馬をからからと笑いながらも、休む場所が見つかったことで上機嫌になったあかねは、「早く、早く」と乱馬の腕を引っ張りながら駈け出した。


 「わー、すごい!本当に洞窟があったわ」

 「結構小せぇけど、雨に打たれるよりはマシだろ」

 「全然マシよ!あー、びしょびしょで気持ち悪いわ。タオルタオル…」


 あかねはごそごそとリュックサックの中をあさり始めた。しかしすぐに、がっくりとその肩が落ちる。

 乱馬はミネラルウォーターを口に含みながら、そんなあかねの様子に首を傾げた。


 「どうした?」

 「最悪〜…布のリュックだから全部濡れちゃったわ…」

 「うげ」

 
 あかねは水の滴り落ちるリュックを持ち上げて見せる。乱馬は気の毒そうにそれを見遣ると、自分のリュックを手繰り寄せて中を引っ掻き回した。

 
 「俺のはビニールのだから大丈夫みたいだな。ほれ、タオル」

 「ありがと…」

 「ついでに服も貸してやるよ。それ、乾かしたほうがいいぜ」


 乱馬は水色のタオルと赤いチャイナ服をあかねに手渡しながら、石を手に取って火を起こそうと試みる。

 しかし湿っているためか、まったく上手くいかない。乱馬はもどかしげに石を外に投げてしまうと、そのままあかねに背を向けてごろりと寝転がった。


 「そのタオルでも巻いてろよ。濡れた服着てっと風邪ひくぞ」

 「え!?い、嫌よ、そんな恰好…」

 「安心しろよ、おめー貧相な身体なんかこれっぽっちも興味ね…」

 「あっそう!!分かったわよ、じゃあタオルでもなんでも巻いてやるわよっ」


 憤慨しながら、あかねはどすっと音を立てて座り込んだ。乱馬は心の中で舌打ちしながら目を閉じる。

 …あかねのバカ野郎。心配してやっただけなのに。




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