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□溶けた鳥籠
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「…はあっ、はっ」
あかねは必死によろける足を叱咤しながら走っていた。一刻も早くそこから離れなければならなかった。何が何でも。
長い間日の光を浴びていなかったせいか、太陽の照り付けだけで眩暈を起こしそうになりながらも、震える膝に鞭を打つ。
「…誰か、たすけて…っ」
たすけて。
誰でもいい、あたしを、彼からたすけて―――。
「…へぇ、逃げたのか。あいつ」
乱馬は壊された鍵を見下ろして、冷笑とともに搾り出すように吐き捨てた。
冷ややかな表情とは裏腹に、頭の中では瞬時にして烈火の怒りが燃え上がる。
「…ふっ、」
不敵な笑みとともに、グチャッと嫌な音が暗い部屋に響き、乱馬の手の内にあった林檎が無惨に潰された。
掌から滴り落ちる果汁を欝陶しげに振り払うと、乱馬は林檎の残骸を踵で踏み潰す。
「上等じゃねえか、あかね。…どうやらまだ分かってないようだな」
にやり、と口の端だけを無理矢理に吊り上げた、この青年らしからぬまがまがしい笑みが広がる。
狂気に取り付かれた獣の表情。いつからこんな笑い方しか出来なくなったのか。
「幾らでも教えてやるよ、あかね。……おまえが誰のモノか」
ボキッ、と不吉な間接音が鳴り響く。乱馬は拳を固く握り締めると、風の速さで走り出した。
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