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□切実な欲求
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「…欲しい、」
掠れた声でそう言って、乱馬はベッドに横たわるあかねの身体に覆いかぶさった。
「…ずっと、おまえが欲しかったんだ。言えなかったけど」
すうすうと寝息をたてて眠るあかねに、その声は届かない。
乱馬はゆっくりと頭をおろすと、あかねのパジャマの開けた胸元に唇を落とした。
「…鈍い女、気付かねえのかよ」
甘い肌の香にくらくらしながらも、何とか乱馬は理性の糸を手繰り寄せる。
それを見失ってしまえばもう、俺は獣にでもなってしまう、と。
眠る女に手を出すわけにはいかない。それがいくら焦がれる女だからといっても。
…でも、苦しい。
触れていても、この手は、唇は、触れていないに等しい。
「らん…ま」
小さな唇から漏れた名は、乱馬自身の心にすうっと落ちてゆく。まるで鉛のように、しかし同時に糧を蓄えるように。
閉じられた目から流れる涙の筋を拭おうとして、乱馬はその手を止めた。
「…俺はここにいるのに、な」
震えた手はそのまま方向転換して、あかねの小さな手を固くにぎりしめた。
明日は俺の四十九日。
身体から離れてからずっと、俺を想って衰弱していくあかねのそばにいた。
触れられた。でもあかねはなにも感じない。
夜通し頭を撫でてやってもだめだった。この心も肌の温もりも、あかねには届かなかった。
俺は、ここにいるのに。あかねのそばに。
でもこの夜が明ければもう、俺は行かなくちゃいけない。もうあかねのもとへ還れないところに。
だからその前に、一度だけ。せめて一瞬でもいい。
あかねに届けたいんだ。
――ずっと暖めておいた、俺の本心を。
end.