油屋休業日のその日、千尋は恋人のハクの部屋に着ていた。
どちらかといえばインドア派なハク(ただ単に千尋のイメージなのだが)のために、今日はのんびりお喋りでもして過ごそうと思ったのだ。
昼下がりの心地よい日の光が、窓から千尋とハクの座る畳へと差し込んでくる。
先程から急に話題が途切れてしまい、千尋はちらりと自分を背後から抱きしめるハクの顔を見上げた。
…なんか物凄く良い雰囲気じゃない?これ!
かっと千尋の頬が熱くなる。沈黙がかえって心地よい。背に感じるハクの温もりが擽ったい。
…よぉし、ここはわたしがハクをリードしてあげなくちゃ!
奥手な彼のために、と千尋は心のなかで決心し、話題を切り出す。
「ねえ、ハク?」
「ん?」
「ハクは、き、き、キスって好き?」
…きゃっ、言っちゃった!
ひとり赤面する千尋。
しかしその一方で、ハクは微妙に首を傾げていたのだった。
…きす?魚の鱚のことか?この状況で何故、千尋はそんな話題を…
恥じらう千尋と面食らうハク様は、まだ知らない。
ふたりの間に重大な誤解があることを……。
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