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□無罪者の憂鬱
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 その日、早乙女乱馬は朝からそわそわと浮足立っていた。朝早く起きてきたかと思えば早々に長風呂をし、今は丁寧におさげを解いた髪を乾かしている。

 ぶお〜…

 
 「ちょっと乱馬くん、何浮かれてんのよ?」


 そんな彼の様子をいち早く目ざとく察知したなびきが眉を少し上げながら聞くと、乱馬はぎくりと明らかに身を固めた。

 なびきは一瞬眉を顰めたのち、「ああ、そっか!」と手を叩く。


 「そっかそっか。そーゆうことね」

 「…な、なんだよ」


 乱馬はたじたじになりながらドライヤーを止める。なびきはにやりと不敵に笑った。


 「今日はあかねと二人きりになるからって、何か良からぬことでも企んでるんでしょう?」


 前々からこの日は乱馬とあかねを除く全員が家を空けることになっていた。しかし、なびきはただほんの少しからかってやるつもりで言ってやっただけだったのだ。

 この辺で顔を真っ赤にして否定し出すだろう。十中八九当たるだろうシナリオを想像して、なびきはほくそ笑む。

 ……が、しかし。

 予想に反して、乱馬は否定してこない。少し気まずそうになびきから顔を逸らすと、黙って半渇きの髪をおさげに結いながらそそくさといなくなってしまったのだ。

 なびきは呆気にとられてその背を見送る。


 「…まさか、図星?」


 







 「…ちっ、やっぱなびきの奴は感がいいぜ。ったく…」


 ハッタリをかまされたことも知らず、乱馬は恋人の極悪な姉の無駄に鋭い洞察力に内心舌を巻く。

 まさに、なびきの言った通りだったのだ。

 乱馬は企んでいた。この機会に、あかねと「愛を深める」ことを。


 「だって、俺達結婚するんだぜ!?それにもうすぐ二十歳になる!」


 最近のあかねはめっきりきれいになった。恋する女は磨かれると言うがまさにその通りだ。男として、そんな彼女に欲情しないわけがない。

 実はここのところ何度かいい雰囲気になっていたりしたのだ。いつもここぞというところで余計な茶々が入るので地団駄踏んでばかりいたのだが。


 「今度こそ誰の邪魔も入らせないぜ!!今日こそは絶対に、あかねと一線を越えてやる!!」


 ふふふふふ、と怪しげな笑みを浮かべながら自室の襖をぱたんと閉めた乱馬の様子をわなわなと窺っていた人物がいたなどとは、彼は全くもって知らなかった。





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