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□お買い上げ
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「は?…記憶?」
少女はさっぱり訳が分からずに、首を捻る。
青年からは悪意は全く感じられないが、どうにも胡散臭い。
「…信用していただけなかったようですね」
少女の様子を観察していた青年が、がっくりと肩を落とした。
少女はそのことに慌てて、首をぶんぶんと横に振る。
「ち、違う!違うんです!ただ、『記憶』を売るなんて、そんなことが本当に出来るのかなって思っただけで……」
青年はじっと、穴が開くほどに少女を見詰める。少女は思わず言葉を切った。
「…とてもきれいになったね」
「…はい?」
突然何の脈絡もなく発された言葉に、少女は間抜けな声をあげる。
青年ははっと我に返ったように目を見開き、頬をうっすらと染めて首を振った。
「…いえ、こちらの話ですので」
「はあ…」
「…ところで、『記憶』を実際に売ることが出来るのか、とお聞きになったのでしたよね」
青年は話の矛先を無理矢理戻すと、さっと戸棚から一枚の紙を出してきた。
「さあ、こちらへ寄ってください」
青年に手招きされ、少女は言われるままに机に近づく。
青年はなおも少女を凝視している。それもかなりうっとりと。目にハートのマークでも書いてあるかのようだ。
「あ、あの…」
その視線が気恥ずかしくて少女が思わず声をかけると、青年はまたはっと我に返り、ぶんぶんと首を振った。
「失礼。…ところで、この紙ですが」
白く細い指先で、青年はその真っ白な紙を持ち上げた。
何の変哲もない紙である。
首を傾げる少女に、青年はにっこりと笑いかけた。
「この紙に名を書いてください。そうすれば、あなたの心の奥底に眠る記憶を引き出すことが出来ます」
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