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□お買い上げ
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チリン…
こぢんまりとした街の一角にあるとある店に、客の来訪を告げるベルの音が鳴った。
ぱたん、とドアを閉めて、薄暗い店の中をきょろきょろと興味深げに見回す少女。
「いらっしゃいませ」
「わっ!!」
不意に聞こえてきた声に、少女は飛び上がらんばかりに驚かされる。
同時にくすり、とどこかから洩れる静かな笑い声。
「あ、あの…」
羞恥に顔を赤らめつつ、少女は怖ず怖ずと声の主に問い掛ける。
「…如何されましたか?」
足音が近くなってきたかと思えば、少女の視界が不意に明るくなった。
そこに提灯を持って現れたのは、美しい青年。
白いTシャツにジーンズ、というラフな出で立ちであるにも関わらず、清涼とした空気がどことなく優雅さを醸し出している。
言葉を失う少女にまたくすりと笑みを零し、青年は提灯を木製の机に置いてそれに寄り掛かった。
「あ、あの…、いつも気になってたんですけど、…ここのお店って…何を売るんですか?」
少女は呼吸を整えながら、聞きたいことをなんとか言葉にする。
青年は変わった色の瞳を細めて、可笑しそうに笑った。
「この店では、…『思い出せない記憶』をお売りしています」
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