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□楽園は何処にある
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 薄暗い地下牢の中。

 四肢を壁と鎖で繋がれ、力なく頭を垂れている男がいた。

 男の纏っている白い水干には、ところどころ血が滲み、手足には切り傷がいくつも治されることなく放置されてある。

 不意に、鉄格子の外から彼を覗いていた巨顔の魔女がくくっと嫌な笑みを零した。

 
 「…いいザマだね」


 悪意に満ちた声がその皺の寄った口から発せられるも、男はぴくりとも反応しない。

 魔女は一瞬眉を顰めながらも、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


 「どうだい?今の気分は。…愛しい愛しいあの人間の小娘のことでも考えているのかい?」


 その瞬間、男の頭がぴくりと反応した。

 緑色の髪が微かに揺れる。

 魔女は男の細やかな動揺を見逃さなかった。


 「あの娘のところに行きたいんだろう?」


 ついに男が顔を上げた。

 恐ろしいほどに整ったかんばせ。

 その表情にありありと浮かんでいるのは、精神の限界を超える苦痛。


 「…どうか、行かせてください。お願いします」


 細い、しかしどこか芯の通った声で、男は囁いた。

 魔女はにたりと険悪な笑みを深める。


 「ああ、いいだろう。…ほんの少しの間だけだよ。それでお前はまたここに戻ってくる」


 魔女はそう言うと、人差し指をすっと横に引いた。

 すると男の瞼が否応なしに下りてゆく。

 ついにはその頭ががっくりと重力に従って垂れた。


 「まったく、よく続くねえ」


 魔女は動かなくなった男の頭を見ながら、軽蔑と呆れの籠った口調で言う。

 
 「…竜ってやつは、本当にしぶとい生き物だよ」


 くっくっく…


 耳障りな笑い声が、薄暗い湿った地下牢に反響した。



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