「いやっ、行かないで!!ここにいて、お願い!!」
昔未だ私達が幼かった頃に、そなたは同じ言葉を言ったね。
あの時、私は「行かねば」ならなかった。
だからそなたを置いて行った。
「千尋。…こうするしかないんだよ」
胸に縋り付いてくる手をそっと包んでおろしてやる。
ああ、本当にあの時と同じだ。
そなたの懇願の眼差しを静かに受け止めて、私はまた…
「…私は行かなければ」
明確な意思を瞳に窶して断言するも、そなたはいやいやと首を振る。
目にいっぱい涙を溜めて。
またしても私は、そなたを泣かせてしまう。
不安にさせてしまう。
「ハク、お願い…、わたしのそばにいてほしいの…」
悲痛な声で、面持ちで、そなたが訴えてくる。
どれほどこの場でそなたを攫ってしまいたいか。
動きかけた指をぐっと拳の中に押し込めて、私は立ち上がった。
.