titles

□私は帰ってくる
1ページ/4ページ


 「いやっ、行かないで!!ここにいて、お願い!!」


 昔未だ私達が幼かった頃に、そなたは同じ言葉を言ったね。

 あの時、私は「行かねば」ならなかった。

 だからそなたを置いて行った。

 
 「千尋。…こうするしかないんだよ」


 胸に縋り付いてくる手をそっと包んでおろしてやる。

 ああ、本当にあの時と同じだ。

 そなたの懇願の眼差しを静かに受け止めて、私はまた…


 「…私は行かなければ」


 明確な意思を瞳に窶して断言するも、そなたはいやいやと首を振る。

 目にいっぱい涙を溜めて。

 またしても私は、そなたを泣かせてしまう。

 不安にさせてしまう。


 「ハク、お願い…、わたしのそばにいてほしいの…」


 悲痛な声で、面持ちで、そなたが訴えてくる。

 どれほどこの場でそなたを攫ってしまいたいか。

 動きかけた指をぐっと拳の中に押し込めて、私は立ち上がった。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ