いつかわたしは、誰かを待っていたことを忘れ、そのことを忘れてしまったという事実すらも忘れてしまうんだろう。
どこか特別な場所があった筈なのに。
思い出せない。
残像すらも残っていない。
大切に仕舞っておいた筈のものも。
形有るものも無いものも、なにもかも流れ出ていってしまう。
あのひとの名はなんだったっけ。
どんな姿形をしていたっけ。
ただ只管に待っていたひと。
確かに覚えていた筈なのに、今はこんなにも朧げで。
だから今、辛うじて誰かを待っているという記憶が残っているうちに。
さようなら。
さようなら。
いつかすべてを忘れてしまったとしても、どこかでまた、逢えますように。
end.