Inuyasha

□鼬ごっこ
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 本日無駄にした矢の数、数えて六本。ああ、もったいない。

「桔梗っ、てめー!この俺をこんな無様な格好にしやがって!」
 楡の大木に串刺し状態にされた犬夜叉が、まだ何か喚いている。負け犬の遠吠えに無駄な矢の消費を嘆いていた桔梗はやれやれと首を振った。
「毎日毎日、変わり映えのしない鼬ごっこ。犬夜叉、お前もよく飽きないものだな」
「んだと、このっ!」
 拳を突き出そうとするが、矢は袖にしっかりと食い込んで抜けない。破魔の矢の威力は絶対だ。
「やめておけ。暴れれば暴れるほど、ますます矢は抜けなくなるぞ」
「ちっくしょうーー!」
 犬夜叉は桔梗の胸元にぶら下がる宝玉を物欲しげに見つめたあと、恨みがましい視線を彼女に投げかけた。
「なんて勘のいい女だっ」
「あいにく、そうでなければ玉の守人は務まらぬよ」
 お前のような不埒な輩がごまんといるからな。と、弓の先で犬夜叉の頭をぴしり。
「いい加減、玉は諦めたらどうだ?どうせお前の手に渡ることはないのだから」
 犬夜叉は鼻を鳴らす。
「けっ、寝言は寝て言えってんだ。俺がちっと本気出しゃあ、こんな玉の一つや二つ手に入れるくらい、どうってことねえんだからよ!」
 ここで桔梗は不思議そうに首を傾げた。
「なら、なぜ本気を出さない?」
「……はあ?」
「本気を出せば容易く私から玉を奪えるのだろう。なぜそうしない?」
 犬夜叉はきょとんとした顔になる。それからすぐに慌てた様子で首を振った。
「ち、ちげーよ!今のは言葉の綾でいっ」
「言葉の綾?」
 桔梗はまだ腑に落ちない顔で、胸元の玉を握り締める。
「ーーお前の本気というものを、私はまだ見ていないということか」
 独り言のように呟く巫女から、なぜか顔を赤らめて目を逸らす半妖。
「……お前相手に、本気で突っかかれるかよ」
「うん?何か言ったか、犬夜叉?」
「なんでもねえ!この地獄耳っ」
 他愛もない鼬ごっこの繰り返しも、まあ悪くない。今はまだ、もう少しこのままで。
 

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