novels 3
□U
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五年。
あの子との訣別の日から、それだけの月日を重ねてきた。
拳を開いて「5」を作る。
何時の間にか、共に過ごした月日よりも遥かに長い時を越してしまっていた。
二十代に終わりを告げ。代わりにあの子に二十代がやって来て。
大人になったあの子を見ることは、遂に叶わなかった。
あの日あの子とした賭け。
運命を定めたコイントス。
あの時俺は真っ向から勝負したんだ。イカサマなんてしなかった。
フィフティ・フィフティの勝率は、しかし俺の方に傾いた。
俺は、勝った。
あの子が、負けた。
『もし俺が勝ったら、俺の言うことをひとつ聞いてもらうよ。その代わり、君が勝てば君の願いをひとつ聞いてあげる』
『…分かりました』
あの時真剣な瞳で、硬貨を弄ぶ俺の指先を見ていたあの子は、一体何を願おうとしていたんだろう。
硬貨が落ちてくるまでのあの瞬間、いや厳密に言えばもっと前から、俺は既に勝利を確信していた。
『俺の勝ちだね。だから、』
……俺と、別れて。
可笑しな話だ。
別れたいのなら、こんなに回りくどいことをする必要など無かっただろうに。
…きっと俺は、何処かで迷いを抱いていたんだろう。
だから敢えて、フィフティ・フィフティの賭けに決定権を委ねたんだ。
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