novels 3

□Y
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長い長い闇の中で漸く掴んだ一筋の小さな灯りは、既に自分の思考の全てを毒していた。

公園のベンチに腰掛けて、真夜中の凍れる冷気を体内に取り込み、星の瞬きすらも見えない夜空を仰ぐ。



「…来てくれるかな…」



……否、彼女は来ないかも知れない。

100%など存在しえないのだから、必ず来てくれると錯覚することはあまりに無謀過ぎる。

しかし、それでも裏を返せば、彼女が100%来てくれないとも言い切れないのだ。

僅かな可能性だとしても、もしも彼女が足を運んでくれるかもしれないと言うのならば。


…待っていられる。例えどんなに行く末が不透明で不安定なものだとしても。


人生を変えた彼女との邂逅の日に、彼女を騙った自分を丸一日も待ち続けていてくれた彼女の姿が瞼の裏に浮かんだ。

そして、騙しておきながらそんな彼女を放っておけずに、結局は直ぐ傍から離れることの出来なかった自分も。



『馬鹿正直じゃいけませんか』



…否定などしない。何故なら自分だって、その真っ直ぐに生きる様にどうしようもなく憧憬し、そして羨望していたのだから。







近頃無意識のうちに回想する追憶の中の彼女は、何時だって涙を流していた。

会いたい、会いたいと切望するうちに、自分の中で芯が揺らいでいくのを感じながら一人静かに怯えていた。


……泣いていてもいい、と。

いつしかそう思うようになったのだ。

どんな顔をしていてもいい、再び巡り会うことが叶うならば、と。


もう彼女の頬に一筋の涙の跡すら残さないようにと、そうして彼女を愛してきた筈だったのに。

それが自分なりの、彼女の愛し方だったと信じていたのに。

きっとこれだけは不変のものなのだと信ずることのできた、この愛し方すらも変わってしまうものなのか。


…何故人は変わるんだろう。

永遠に幸福な瞬間のコラージュの中で生きていけるなら、きっと苦も無く痛みも無いのに。



「あ……雨」



闇から降ってきた雫は冷たくて重い。

段々と雨脚が強くなっていくも、身体が其処から動こうとはしなかった。

傘もない。何も在りはしない。

自分には、一方的に押し付けた約束しか。


冷たい水を含んで質量を増していく服を煩わしく感じながら、追憶の中でまたしても静かに涙を流している少女に想いを馳せた。

……それでも、自分は待っている。当て所ない約束に縋って。


だから、どうか来てほしいと願わざるを得ない。

来てくれたなら、またまみえることが叶ったならば、何かが変わってくれるような気がする。

待つことが今出来る唯一の術ならば、ただここでこうして彼女を待っていることに、全てを注ぎ込みたい。





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