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□鸚鵡
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乱馬は冷たいミネラルウォーターやらゼリーやら冷えピタの入ったビニール袋を手に、商店街を駆けていた。
あまりの暑さに、あかねが体調を崩したのだ。恐らく熱中症だろう。運の悪いことに、家族は皆家を空けており、今あかねを看病してあげられるのは乱馬のみだ。
突然立ちくらみがしたというあかねを部屋のベッドまで運んでやり、家を飛び出してきたのだった。
「…ったく、この暑さじゃ仕方ねえよな」
手の甲で額に浮かぶ汗を拭い、乱馬はひとりごちた。
「…早く帰ってやらねえと」
つらそうなあかねの様子を思い返す。抱き上げた時は、身体が湯たんぽのように熱かった。
乱馬は一刻も早くあかねのもとへと帰るべく加速した。
「…ふっふっふ」
何やら怪しげな笑い声を上げながら住宅街の道なりに歩いているのは、ムース。
手にはなぜか小さな鳥籠、そのなかには緑色の小さな鳥。
「これさえあれば、シャンプーの本心を確かめることができるだっ!!」
わっはっは、と大口開けて笑うムースの横を、刹那物凄いスピードで乱馬が駆けて行った。
「な、なんじゃ!?」
弾みでよろけたムースの手から鳥籠が離れ、コンクリートにガチャンと落ちる。
鍵が拍子に壊れてしまい、中から緑の小鳥がすかさず逃げ出して乱馬の後を追うように飛び去って行ってしまった。
「あ"ぁぁぁぁ〜〜!!!」
ムースはショックを受けてがっくりとうなだれた。
「おらの、おらの鸚鵡(オウム)が……!おのれ、乱馬!毎度毎度おらを邪魔しおってっ!!」
ゴゴゴ…
熾烈な怒りを発するムースにも、乱馬を追う鸚鵡にも、帰り道を急ぐ乱馬はもちろん気が付かなかった。
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