novels 2

□周りを見てごらん。僕らしか存在しないから
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壁に耳あり、障子に目あり、とは良く言ったものだ。

この家の住人は始終自分達二人の恋路の行く末を見届けようと、事あるごとに至る所から覗き見てくる。

実に迷惑千万なことである。



「…だからって、わざわざこんな所に来なくても良いのに…」



苦笑いしながら、声を潜めてあかねが囁く。

その肩をそっと引き寄せながら、乱馬は真っ暗闇の中でそのまろやかな温みを腕のなかに閉じ込めた。

押し入れの中、なんてムードも何もあったものではないのが普通だが、何しろここは変人蠢く天道家の敷地内である。

動物園の見世物よろしく、自分達だけのささやかなひとときを邪魔されないだけマシというものだ。



「もー、真っ暗で何も見えないし…って、ちょっと!どこ触ってんのよっ」

「しっ、静かにしろよ。外に聞こえる」



しれっとかなり際どいところを触っておいて、今度はあかねの声の大きさを窘める。

人差し指をぴたりとあかねの唇に当てると、暗がりの中で乱馬がにんまりと悪戯げな笑みを浮かべた。



「やっと二人っきり、だな。あかね」

「だ、だめよ!こんなところでっ」

「しっ。ほら、大きな声出さない」



狭苦しい押し入れの中、漸く乱馬の声色に篭った抑えようもない情欲を嗅ぎ取ったあかねが身じろぎをしだす。

しかし言わずもがな、やんわりと身体を倒されて、呆気なく積み上げられた柔らかな布団の波に飲み込まれてゆく。



「き、聞こえちゃったらどうするのよっ」

「じゃ、音が洩れないように励めよ」

「なっ、ば、馬鹿!へんた……んぐ」



再び乱馬の指先があかねの唇を封印する。

にっこりと、至極満足気な笑顔を惜しみ無く浮かべながら、乱馬があかねに覆いかぶさってその耳元に吐息だけで囁いた。

誰にも邪魔させない、二人だけの時間の始まりの合図。



「……安心しな。俺達二人しかいやしねえからよ」






end.

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