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□beside
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「お前とあいつってさ、昔から同居してんだろ?」


昼食時のことである。親友からの問い掛けに、宗介はぱちりと瞬きをした。


「あいつって?ポニョのこと?」

「他に誰がいるんだよ」

 
たしかにね、と宗介が苦笑いを浮かべる。


「うん、そうだけど。それが何?」


宗介は先を促した。食べかけのサンドイッチをまた一口かじり、窓際で女子達の輪にまざっているポニョへと焦点を定める。

ポニョは手を叩いて大笑いしていた。よほど面白い話をしているのだろう。

目を引く長い珊瑚の髪が、ポニョが笑って身をよじる動きに合わせて、背中で揺れている。


「宗介さあ、あいつのこと好きなのか?」

「どうして?」


宗介はポニョから目を離さずに、すかさず切り返した。

友人は少し考え込むように天井を仰ぐ。


「だってよく言うじゃん。ずっと一緒にいると恋愛感情って芽生えにくいとか」

「……ふーん。そうなんだ」

「だからお前等はどうなのかなって思ったんだ」


宗介はまた一口、サンドイッチの角にかじりついた。

ポニョは引っ切り無しに笑い続けている。相変わらず、母親譲りの上品で整った顔立ちには釣り合わない豪快な笑い方だ。

宗介はくすっと笑みを零し、親友に視線を戻した。


「僕はポニョのこと、好きだよ。家族としてとかじゃなくて、ひとりの女の子として……ね」


言ってしまってから気恥ずかしくなり、宗介は照れ臭そうに笑いながら睫毛を伏せた。





「宗介ー!」

「わっ」


無防備な背中に思い切り抱きつかれ、宗介は机につんのめった。

強かにぶつけた鼻と額を摩りながら、非難を込めて後ろを見遣る。

ポニョが背に蛸のようにへばり付いて、にやにや笑っていた。


「あのさ、ポニョ、そうやっていきなり抱き着いてくるのやめてって何度も……」

「宗介、ポニョのこと見てた!」


教室中に響き渡る溌剌とした声に、宗介は瞬時に顔を赤らめて静かにするよう諭す。

無論ポニョは聞く耳を持たない。


「見てた見てたー」

「み、見てないっ」

「うそ、見てたよ!ずーっと見てたー!」


周りからどっと笑い声が上がる。親友の雄太は腹の皮を攀らせて涙すら浮かべている。


「なに話してたの?雄太、教えて!」

「は、腹いて……あのな、宗介はな…」

「わーっ、ゆ、雄太!」


真っ赤になって焦る宗介を尻目に、ポニョは食べかけのサンドイッチに手を伸ばした。中から器用にハムだけを抜き取り、素早く口の中に放り込む。

視界をなにかが過ぎったことに気が付き、宗介がはっと振り向いた時には時既に遅く、ハムは既にポニョに美味しくいただかれていた。


「ポニョ、僕のハム……!」

「おいしいー」

「……またやられた」


今度こそマスタード塗ってやる、と悔しげにぼやく宗介のことなど彼女は意に介さない。ハムをぺろりと平らげると、ポニョは宗介の首に抱き着いたまま微笑んだ。


「ポニョ、ハム好き!」


彼女は猫のように頬を擦り寄せる。


「でもね、宗介のことは、もっともっとだーい好きー!」


宗介はぽかんと口を開けて、ハムのなくなったサンドイッチを膝の上にぽとりと取り落とした。

教室には暫く、笑いが漣の如く広がって絶えなかったらしい。






end.

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