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□氷の華
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乱馬とあかねは二人で夏祭りに来ていた。あかねは藍色に白い花柄の浴衣を着て、乱馬の腕を引っ張りながらはしゃいでいる。
「すごい人ね」
「ああ、この暑いのにこうも密集してるとむさ苦しいぜ」
そう言いながらも、乱馬の表情も愉しそうだ。想いを寄せる少女との夏祭り。嬉しくないはずがない。
夜の帳を降ろした商店街に並ぶ、無数の出店達。あかねは目を輝かせながら、どこに行こうかと決め兼ねている。
「ね、最初はどこに行く?」
「…腹減った」
「もうっ、出る前にしっかり食べてたくせに。……あ」
あかねは不意に足を止めて、ひとつの出店に目を止めた。乱馬もあかねの頭越しにそれを見遣る。
「…かき氷か」
「暑いしいいじゃない。ほらほら」
ぐいぐいと乱馬の腕を引きながら、あかねはその出店に近づいてゆく。
独特の黄色い明かりに照らされて、愛想の良さそうなおばさんがあかねを見留めるとにっこりと笑った。
「いらっしゃい、可愛いお嬢さん。何味がいい?」
「え〜と…じゃあ、いちごミルクお願いします。乱馬は?」
「俺はいい。なんかしょっぱいもん食いてぇからよ」
「そう?」
あかねはお代の三百五十円のために、ごそごそと巾着袋の中の財布を探す。
しかしその間に、乱馬があかねの頭越しににゅっと腕を出して小銭をおばさんに差し出していた。
「良い彼氏さんで羨ましいわね〜」
おばさんの朗らかな言葉に真っ赤になったあかねの腕を、「行くぞ」と言って乱馬が引いた。
「あんたが出してくれるなんて、意外」
ベンチに座り、しゃくしゃくとかき氷を混ぜながらあかねは呟く。
「俺だってそんくらいの甲斐性はあるぜ」
「ふぅん。あんたいつも金欠だから、今日もあたしが全部だしてあげる羽目になるかと思ってたのに」
「…あのなあ」
「…ぷっ、」
あはははは、とあかねが笑う。乱馬は思わずその華のような笑顔に目を奪われた。
その小さな舌に、ほんのりと色づく桃色。
考える前に、乱馬は身を乗り出していた。
「……!!」
「かき氷の駄賃。ごっそーさん」
顔を真っ赤にして硬直するあかねを見遣りながら、ぺろりといちごミルク味の残る舌を出して、乱馬は上機嫌に笑った。
end.