ranma 1/2
□有効的活用法
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「でも、なんか孫といるみたいで居心地悪いのよ。たまにはおじいちゃんに戻ってよね」
そう言うと、乱馬は仕方ねえなあと言って、机に置いてあった急須を頭の上でひっくり返した。
途端に、元の乱馬が現れる。
しわくちゃのおじいちゃん。腰も曲がってて、髪も真っ白で。あたしとおんなじ年を重ねた素の乱馬。
「……やっぱ、不便だなあ」
その声も、さっきまでのように威勢がなくて、老人らしいよぼよぼした声だった。
「いいじゃない。あたしなんか、もうこれからもずっとこのままで生きていかなくちゃいけないんだから」
あたしは笑いながら言った。
「…それに、」
そう言って、あたしはもう一度三面鏡を開いた。
そしておじいちゃん乱馬のとなりに立って、その手をつないで、ふたりで鏡の中に収まってみた。
「一緒に年を重ねたいじゃない。ね?」
鏡越しに、おじいちゃん乱馬が照れくさそうに笑った。
その一瞬だけ、あたしたちの時がまるで遡ったかのように感じられた。
「でもなんで、そんなに若いままでいたいのよ」
あたしは夕飯の仕度をしながら聞いてみた。
乱馬は老眼鏡を外して、あたしを真っ直ぐに見据えると、にっこりと笑う。
「健康な身体でいたほうが、あかねのことを守れるだろ」
不意打ちのその言葉と笑顔に、あたしは一瞬言葉を失って、それから赤面した。
「ま、この変態体質も、有効的に活用すれば悪くねえってことだぜ」
「─…あんたって、実はものすごく前向きなのね」
ふたり顔を見合わせて、それから笑い声がさざなみのように広がっていった。
──乱馬。
昔も、今も、これからも、あんたがあたしを守ってくれるから。
だから、あたしは笑顔で年を取っていく。
これからもふたり一緒に、年を重ねていこうね。
end.