bitter

□桜散る日〜蝶の堕ちる音〜
1ページ/3ページ

俺と奴の出会いは、ずっとずっと前のことだった。
俺がおかしくなる前・・・攘夷戦争のさなかに、俺と奴は出会った。
いつもより弱かった天人の奴らに油断し、重傷を負い逃げ込んだ村で、俺は気を失った。
目が覚めた時、俺は見覚えのない部屋にいた。
やけに小奇麗な・・・しかし人気のない家の仲、俺は治療をされて、布団に横になっていた。
俺があたりを警戒していると、部屋の戸が開き、一人の男がはいってきた。
そいつは、少し長めの髪に、女と見まごうほどの美しさを持っていたが、間違いなく男だった。
俺はそんな奴に、不覚にも目を奪われた。
奴は俺の枕もとに座ると、その顔を少しも緩めることもなくぽつりと、

「猫みてェ」

・・・と、呟いた。
無意識だったのだろう。
奴はそれ以上何もいうこともなく俺をじぃっと見つめた。
俺は、そんな奴に笑ってしまった。
そして俺は言った。
お前は猫みたいだと。
警戒心の強い漆黒の毛をもつ寂しがり屋の猫みてぇだと。
その時、初めて奴の顔に驚きの表情が浮かび、次の瞬間にはそれは喜色に変わった。
そして俺は、そんな奴のことを守りたいと、奴の悲しみを癒してやりたいと、そう思った。
だが・・・そんな日々がいつまでも続くはずがなかった。
俺を追っていた天人が)この村の近くに来ていたのだ。
俺は、奴が出かけている間に奴のもとを去ることを決めた。
何も言わなかったのは俺のエゴ・・・。
俺が、寂しがり屋の猫みたいなやつと別れたのは、桜も散りかけた春の終わりだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ