bitter

□桜散る日
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俺と奴の出会いは、ずっとずっと前のことだった。
近藤さんと出会う前・・・家族が殺されて一人になった俺と、奴は出会った。
傷だらけで倒れてた奴を拾って手当したのは俺の意思。
何でもいいから、よりどころが欲しかったんだ・・・。
一人になって、頼る人もいなくて、暗い暗い闇の中を一人ゆらゆら彷徨って。
そんな時に見つけた。
それが光か闇かなんて、俺には知るすべも何もなかった。
回復した奴は、猫みたいだった。
黒い髪に無駄な筋肉が付いていないしなやかな体。きれいでプライドの高い黒猫だと思った。
そう思ってたら、奴は俺に言った。

「お前は猫みたいだ。」

・・・と。
さっきまでの警戒の色なんてまるでなくて、面白そうに奴は言った。

「お前は警戒心の強い漆黒の毛をもつ寂しがり屋の猫みてェだな」

嬉しいと思った。
何がかはいまだによく分からないけれど、ただなんとなく、嬉しかった。
それから奴と俺はしばらく一緒に過ごした。
でも・・・それがいつまでも続く事はなかった。
ある日俺が帰って来ると、奴はいなくなっていた。
何処を探し回っても、いつまでたっても、奴が戻ってくることはなかった。
奴は、猫みたいだった。
気まぐれに来ては、いなくなる。
手を伸ばしてもつかむことはできない。
だって、猫なのだから・・・。
優しい目を持つ猫みたいな男がいなくなったのは、桜も散りかけた春の終わりだった。
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