bitter

□それは美しくも儚く
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「新撰組副長土方十四郎!覚悟!」

そう言って刀を振り下ろすのは、若い攘夷志士の男である。
だがその切っ先は、黒い着流しをきた漆黒の髪を持つ男・・・土方十四郎には届かなかった。
土方は顔色一つ変えず、その男を斬り捨てる。
そして、自分の周りを囲む15人もの男たちを睨みつける。

「テメェら・・・不逞浪士だな?・・・本当はしょっ引かなきゃいけねェんだが、今は虫の居所が悪ィ・・・手加減できそうにもねぇ。全員殺す」

「っ・・・!ふざけるなぁぁぁ!!」

土方のそのセリフにキレた一人の男が、土方に向かって刀を振り下ろす。
だが、土方はこともなげにその刀を紙一重でかわすと、男の首を斬りおとす。
大量の血が吹き出て土方の身を濡らすが、そんなことはどうでもいい。
土方は、茫然としている男たちの懐に素早く入り込むと、横一文字刀を振り切る。
そして前を向いたまま、目線だけを後ろにやると、刀を持ち替え後ろから土方を斬ろうとしていた男の腹を、突く。
ずるり・・・と嫌な音をたてながらまだ生きている男の腹から刀を引き抜くと、動けないでいる男たちを冷ややかな、感情の籠っていない眼で見つめる。
男の一人が、土方のその眼に体を震わせながら呟く。

「お・・・にだ」

その声が聞こえたのだろう。
土方は、自嘲気味に笑うと、

「んなこたァ・・・テメェが一番分かってるよ」

と言い、刀を構える。
先ほどまでの流れるような「殺し」に反応出来なかった男たちも、今度は土方と距離をとりながら刀を構える。
そして、いっせいに斬りかかる。

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

しかし・・・。

「なぁ!?」

遅かった。
否、土方の動きのほうが早かった。
土方は、斬りかかられる寸前に目の前にいた一人の男を斬り伏せ、いとも簡単に相手の攻撃を崩す。
男たちの背に、冷や汗が流れる。
しかし、それも仕方のないことだろう。
技で土方に勝つことはおろか、数でさえも勝つことなど不可能と思い知らされたのだ。
先ほどまで、少しでも己等の勝利を確信していた分、反動は大きい。
男たちの眼には、もう恐怖の色しか浮かんでいなかった。

「あ・・・あぁ。頼む・・・許してくれ。頼む・・・!!」

「惨めだな」

土方は命乞いをしてくる男を冷たい目で睨みつけると、何の躊躇いもなく斬り捨てる。
あと、八人・・・。
土方は無意識のうちに、舌なめずりをしていた。
その口元に、修羅のごとき笑みを浮かべて。


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