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□トクベツ
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なぜか僕には前世の記憶がありました。おかしなこととはわかっていたので誰にも言ったことはありませんが。

その記憶の中で最も大切な人がいました。その人のことは特に明確に、はっきりと、覚えていました。



地球には掃いて捨てるほど人間がいて、歴史を鑑みると更に数えきれないほどの人々がいることは知っています。




ですから、まさか、会えるなんて思っていませんでした。












無機質なコンクリートに囲まれた校舎はあなたには似つかわしくないと思った。やはりあなたは、例えば、クローバーなどが生えている野原とか、空を反射する綺麗な川辺などが似合います。
まぁ、けど、どんな状況でも楽しそうに笑うんですね、と笑顔の彼を見て安堵した。変わっていないと、ほっとしたのかもしれない。そんなはずはないのに。





「おーっ!初めまして!私は君の担任、太子先生でっす」






初めまして。
うん、そうだよな、わかってる。

でも、実際にこの太子はあの、いつも一緒にいた太子ではないのだという現実を突き付けられるのはつらい。


少し俯くと、閻魔先生がしげしげと僕を見ていた。出来るだけ平穏を装っているが、端から見ると変な態度なのか、と少し焦る。




「じゃあ太子、あとはよろしくな」
「おぉ、ありがとー閻魔。投げキッス!ちゅ!」
「いらね!」






さーて、教室に行くか、と笑顔を向けられ、僕の瞳が揺らぐ。こんなに近くて、こんなに遠い。もどかしい気持ちが全身を支配した。



振り絞った声は、擦れていた。





「何で…、」
「ん?」
「何で…ジャージなんですか?」





太子はキョトンとした顔をしたが、すぐにいつものうざい顔に戻り、なぜか誇らしげに「動きやすいからだ」と言い放った。




「はは…」



乾いた笑いが、零れた。
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