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□企画等、捧げ物集
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ガイルクwebアンソロジー企画『DIARY』への投降作品
「いやだ!」
嫌だ嫌だと首を激しく振り、ひっしと服を掴む子供。目には涙が浮んでいる。
俺はこの顔が苦手だ。
どうしたらいいのか、分からなくなる。
「ずっといっしょにいるって、いったくせにっ!!」
「…ルーク様」
しゃがみ込み、視線を下げる。宥める様に頭を撫でると、ルークは俺の手を振り払った。
「ガイのうそつき!!ガイなんか…ガイなんか、
だいっきらいだ!!」
【キライキライキライ】
ND2013 ローレライデーカン 48の日
今日はルーク・フォン・ファブレの13歳の誕生日。屋敷の中では古参の使用人や執事、公爵夫人、許嫁が彼の誕生日をささやかではあるが祝っている。
「…これで、良かったんだよな」
その場にルーク傍付きのガイ・セシルは招待されていない。一介の使用人だから、ではない。
数年ではあるが過ごした部屋は片付き、がらんとしている。
「これで…」
知らず知らずの内に拳を握り締めていた。
何かから逃れる様にして、ベッドの上に置いていた袋を掴み、部屋を一瞥することなく扉を閉める。
鍵を掛けたところで、声を掛けられた。
「ガイラルディア様」
「ペール、か…」
「本当に宜しかったのですか?」
ペールの言葉に視線を下げる。
「何が」
「…ここから去ることが、です」
この日をもってガイ・セシルという使用人は居なくなる。この世のどこからもから居なくなるのだ。
「…いいさ」
それは公爵直々の申し渡しだった。
その時のことを今でもありありと覚えている。
『ルークほどの地位にいる者が、一人の使用人に執着を見せるのは良いことだとは思えん』
『このままではルークだけでなくガイ、お前にも悪い影響が及ぶだろう』
『すまないが、ガイ―』
「いいんだ。もう、決めたことだ」
「ですが、ガイラルディア様。貴方はルーク様傍付きの任を解かれただけなのですぞ?」
そう、その時はまだ、使用人としてのガイ・セシルは存在していた。解雇されていない。ただ、ルークの傍にいることを許されなくなっただけだった。
けれども―
「ペール。もう、良いんだ。俺が此処に残っても…」
自ら暇が欲しいと申し出た。
「計算違いだったんだ。ルークは俺に懐き過ぎた」
そのせいで去ることを決めた。それもある。何せ、傍付きの任を解かれたのだから。
だが、一番の理由は
「いや、そうじゃない…」
首を反らし天を仰ぐ。
「俺が、ルークに心を許しすぎたんだ」
復讐のためにこの屋敷で働くことを決めた。そして、ルークの世話をするようになった。
いつかは自分と同じ目に公爵を合わせる。家族を亡くす痛みを思い知らせる。
そのためだけに本心を隠し、仇の息子であるルークの世話をしてきた。いつか、この手で殺す。そう誓いを立て、生きてきた。
「…このままここに居たら、多分俺は…俺が分からなくなっちまう」
だから去ると決めた。
「だからもう、」
「ガイっ!!」
引き止めないでくれ、そう言おうとしたガイの言葉と廊下の先から彼の名を呼ぶ大声が重なった。
***
「ガーイー!」
「…ん?」
「ったく、何ぼーっとしてんだよ」
「あぁ、すまん」
慌てて頁を捲る。
膝の上に載せているのはルークの日記だ。
久々に屋敷に戻ってきた俺達は、ルークの自室で昔の日記を見つけ、整理がてら読み耽っていたのだ。
「急に黙り込むしさ。全然、頁を捲ろうともしないし。俺なんかそこに書いてある事、全部覚えちまったじゃねぇーか」
そこ、とルークが言うのはさっきまで開きっぱなしにしていた頁。
ND2013 ローレライデーカン 48の日。
ルークの13歳の誕生日。
「しかも、中身はアレだし…ガイはずーっと固まったままだし…」
言い難そうにルークは口篭る。
「…その、気に…してんのかなって…」
何の事をだろうかと考え、「…あぁ」と思い至る。
「俺に嫌いだって言ったこと、か?」
ルークは視線を反らしたままだったが、こくんと首を縦に振る。
日記の日付、内容、そして俺が固まったままだったことを気にしているのか、ルークは無言のままだ。
「確かに、気にしてないといえば嘘になるかなぁ」
「…ぅ」
「しかも、お前。泣きながら…」
『なんで、ぱーてぃーをかってにやすんでんだよっ!!やすんでいいなんて、いってないし、ゆるしてないぞ!!』
『ルーク、様…』
『それなのに、それなのに…!!』
「なんて、言うからさ」
「…ぅぁぁ」
頭を抱えるルーク。
しかし、実際はもっと大変だった。
泣きじゃくるルークは引っ付いて離れようとしない。ペールがあやしても同じだった。
慌てて、ラムダスがやって来たのだが、上に同じ。
挙句には、
『ガイをキライなままはヤだ!!』
『ガイのこと、 なのにっ』
と鼻水と涙を垂らし俺に抱きついたまま叫ぶ始末。
結果、俺は屋敷に残ることになった。
「でも、まぁ…あの時ルークがあんな風に言ってくれなかったら、俺は屋敷を出て行ってたと思うよ」
あの時は、本気で出て行くつもりだった。
けじめの様なものだったから。
「それに、お前の言葉のお陰で踏ん切りついたし、今こうしてお前と一緒にいられるし、な」
朱色の頭を軽く撫でてやると、照れているのか恥ずかしいのか、そっぽを向いた。
けれども耳が真っ赤なのは丸見えだ。
顔も真っ赤になっているに違いない。
「お前の素直な言葉が聞けたし、感謝してる。ホント」
「…」
「だから」
頬に手を当て、こちらを向かせる。
そしてその頬目掛け、唇を寄せた。
「っ〜〜〜お前のそーゆーとこは」
「嫌いだ、ってか?」
言葉を先取りして言うと、ルークはさらに顔を赤くして叫んだ。
「大ッ嫌いだっ!!」
***
ここまでお読み下さり、有難うございました!素敵なガイルク企画に参加させて頂いた、bunと申します。
少し甘め?なガイルクになりました。
本当はシリアスを考えていたとか、そんなことあったりなかったり。
それでは、またどこかでお会いできることを楽しみにしております。
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