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□拍手ログ
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秒針が一秒、一秒と時を刻む。
その音は、普段、生活していく上では意識すらしないのだが、今は違う。
妙に耳に障る。

「…ったく、何だよ」

ぼやく声が空しい。
食卓には冷えた料理が並んでいる。一人分ではありえない量。軽くパーティーは開けるぐらいある。

勿論、俺一人で食くために用意した訳ではない。食うのは欠食児童も顔負けの相棒だ。

「こんなことなら、用意するんじゃなかった」

別に用意をしろだとか、大人しく待っていろだとか言われた訳ではない。

ただ、2時間半前、ギギナから連絡があった。そして普段の癖で料理の腕を発揮してしまった。ただ、それだけだ。

待つ時間が手持ち無沙汰だし、作らなければ作らなかったで色々言われるし、一人では食べきれない量の食材を処分しなければならなかったので、都合は良かったのだが…。

「って俺、寂しい言い訳考えてんだろ」

大体、作ってしまったのは事実で、まだ台所には鍋一杯のスープだとか、山盛りのパスタが残っている。

「あの欠食児童、いつもは作り終えるかどうかの微妙な時間を狙って来る癖に」

次に出てきたのは、未だに現れない相棒への愚痴。相当、俺の頭は待ちくたびれているらしい。

「遅いんだよ…馬鹿」

テーブルに突っ伏す。要約すると、そういう事だ。
料理が冷めて不味くなるとか、作って甲斐甲斐しく待っている自分が馬鹿馬鹿しいだとか、そういうのは二次的、副次的な物であって、本質的なところは奴が遅いのが気になっている。







急いでいた。
体内咒信をしようとして、止める。そうしている暇すら惜しい。足を動かした方が早いのは火を見るより明らかだ。

ガユスとの通信を終えた後、馴染みの娼館を出ようとしたところで捕まった。

どこにでもある暴漢の傷害事件。

それを無視することも出来たが、そこが事務所と契約をしている娼館であることを思い出したのだ。ついでに制圧するまでに数分も掛からぬであろうことも計算済み。

ならばと手を出したのが悪かった。その後の処理に娼館の経営者と揉め、更には警察まで出てきた。

「雑事など、私の仕事ではないというのに」

らしくもなく、ぼやいてしまう。
それは恐らく、焦っているせいだろう。約束した時間など、とうの昔に過ぎてしまっている。

あの小心者で、愚かで、咒式士にはなりきれない男はずっと私の事を待っているだろう。それが、咒式士ではなく人間性、感情を棄てきれぬ要因ではあるのだが。

そして、その愚かで矮小なところが愛おしくもある。

見慣れた街路樹の脇を走りぬけ、視線を上へと向けた。目当ての部屋は煌々と明かりが灯っている。

飛んでくるであろう罵詈雑言の類を予期し、どう宥めてやろうか等と他愛もない事を考えながらアパートの玄関に入っていった。






飼育動物を躾ける100の方法
『待て、が出来たら褒めてあげましょう』




一言後書:似非ギギナだ
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