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□狂乱の宴
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それは、ある作戦が成功を収めた夜の事―

兵士達の歓声、怒声、濁声
それらに瓶と瓶とがぶつかる音があちらこちらから聞こえる。

それらを背に受けながら、アッシュは一人ため息を吐きだしていた。





【狂乱の宴】





アッシュの率いる特務師団、ラルゴの率いる第一師団、そしてリグレットの率いる第四師団。そして、調整役としてルカ。

彼らの魔物掃討作戦。

六神将の内、実に半数が参加をしている作戦は成功を収め、今、その祝賀会が野営地で開かれている。

勿論、アッシュもその祝賀に呼ばれているのだが、ルカの一睨みで泣く泣く辞退したのだ。

「何故にこんな時まで…」

天幕の中、アッシュは一人、紙束と格闘中だ。無論、布一枚隔てた外はお祭り状態。
集中出来る訳もない。

ぼやくアッシュの筆は全くといって進んでいない。ペンを指で回し、目は書類の上を滑る。

肘をついているアッシュの耳に、くぐもった声が届いた。

「アッシュ、入るぞー」
「…あぁ」

天幕をくぐり、入ってきたのはルカ。
両手には大皿やら瓶やらをこれでもか、と抱えている。

「何の用だ」

アッシュの声に棘が混ざるのも仕方のないことだった。
何せ、ルカのせいで外に出られず、祝杯をあげることが出来ずにいるのだから。

「んなツンケンするなよー。ほら、差し入れ」
「フン」
「どう?終わりそうか?」
「テメェが作戦参加中にまで通常の仕事を持ち出さなけりゃ…」
「作戦中でもダアトはダアトで動いてんの。そのための俺、だろ?」
「テメェが来る、そう聞いた時に想像しておくべきだった…」

そう、ラルゴもリグレットもアッシュ同様、ルカの存在でこの作戦中にも仕事をさせられたのだ。
ルカも勿論、この作戦に参加しながら、せっせと夜中には書類整理をしていた。

ただ、アッシュとは違い作戦終了までに終わらせたのだが。

「文句なら上の人間に言ってくれ。って、アッシュはまだ飯食ってないだろ?」
「当たり前だ」
「そう思って、持ってきた。一緒に食おうぜ」

そう言い、ルカは小皿をアッシュへと向ける。その皿とルカを見、次に書類を見た。
まだ、終わりそうにない。それはルカも分かっているだろうに…。

「一緒に?」
「そ」
「何故」
「だって、まだ終わらないんだろ?だったら先に食っちまってさ。そんで俺が手伝えば早く終わるだろ?」
「…珍しいな」

ルカが安易に手伝いを申し出たりすることは余りない。ルカの決まり文句は、責任を持て、だ。

「あのなぁ、明日は撤収なんだぞ?」
「…あぁ、そういうことか」
「そ、撤収は素早く。だからアッシュ個人の仕事だけに、余り時間を割きたくないの。それに徹夜明けだと頭があんまり働かないし」

だから一緒に食おう。ということらしい。

ルカの言う言葉にアッシュは納得し、皿を受け取った。





だが、この時『一緒に』食事をするのを断っておけば…
と、アッシュはこの後、後悔することになる。


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