小説〜主〜

□矛盾スル、心。
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響き合う刃の音。
嫌でも鼻孔を刺激する硝煙の匂い。
そんなものたちに囲まれて、二人は戦い続けていた。

「HA!! そんな緩い動きじゃこのオレは倒せねぇぜ?」
そう言いながら、右手の三本の刀を振り下ろすと、それを一本の槍が受け止める。
「無論!これしきで倒れてもらっては戦いがいがありませぬ!」
槍で刀を弾き返し、大きく後ろに下がりーーーー間合いをとる。
緊迫するこの一瞬。お互いが戦っていることを、今ここに確かに存在していることを、改めて認識する。他のモノなど目に入らない。 
政宗の隻眼に映るは紅蓮の鬼。
幸村のまなこに映るは蒼き竜。   
互いの存在だけが、己を支配してゆく。 この感覚はクセになる。この勝負は…"楽しすぎる"のだ。
一瞬でも気を抜けば首を獲られるかもしれない、次で終わるかもしれないという、「楽しさ」と「恐さ」が共存している。 この瞬間にしか味わえない…この相手でしか感じることができないモノ…。
政宗も幸村も、それを理解している。だから何度も戦うのだーーーーその高揚を感じたくて。

(いつの間に…この勝負の目的は「楽しむ」ことになったんだろうな…)
刃を交えながら、政宗はそんなことを考えていた
。 もしかしたら最初からそう思っていたのかもしれない。決着よりも…戦うことに意味がある…と。
(だが…いつかは…)
決着をつけなくてはならない。それは必然。何故なら二人は好敵手だから。
終わりの無い勝負なんてないのは、二人とも分かっている。 
それでも 終わらせたくない。終わりたく、ない。
いつまでも、迫る結末を無視していたいーーーーーー。

勝負は楽しいはずなのに。
望んでいることをしているのに。

心はいつになく苦しくて。
涙が伝いそうなくらい、切ない想いが胸を締め付けるのだ。
ーーーー全て、矛盾している。
この戦いは、全て離反している。

(某は政宗殿と決着をつけたい……それなのに)
(オレは幸村を倒して…そして天下を取ると決めた……それなのに) 

何故 こんなにも 苦しくなるのだろうーーーー?

貴殿は…お分かりですか?
オマエは…知っているのか?

この どんな言葉でも言い表せない想いの真意を。

相手に問いかけながら振るう刃は、どこか悲しげな音を響かせていた。
                          完

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