小説〜主〜

□本音。
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俺の周りに人間がたくさんいるように、お前にもいる。
だから、その笑顔を、視線を、言葉を投げかけることは当たり前で。
そんなことは分かっている。  分かっている。
……分かっている、ハズだ。

「ま、ま、政宗殿っ!?何をされるのかっ?」
気がつけば俺は、幸村を押し倒していた。慌てる幸村に目もくれず、俺は独り言のように呟いた。
「なぁ……お前は……俺のモノなのか…?」
「はぁ?」
突然の言葉に幸村は素っ頓狂な声をあげた。しかし、すぐに暖かい笑顔になって、
「今更何を言うか。 某は……某の心は、政宗殿のモノでござるよ」
と言った。
本来なら、この笑顔と言葉だけで……否、幸村の存在だけで満足するのに。まだ俺の心には引っかかりがあった。
昔から心に存在する、黒い、大きな渦。それは徐々に心を飲み込んでいく。
嗚呼…、これは嫉妬か?……それとも、不安か…寂しさか……。
「いや…全部、だな……」
「……政宗殿?」
自嘲的な声色と共に出た言葉。 それに何かを感じ取ったのか、幸村は俺の頬にそっと手をあてた。
「……幸村?」
「大丈夫……大丈夫でござる。某は…何処にもいかない。遠くにいたって、政宗殿のモノなのは変わりませぬ。」
「……っ!」
俺は目を見開いた。 自分の考えていることが、まるで伝わっている気がしたのだ。
「某も……よく、不安になるから…。政宗殿は、本当に某を必要としてくださっているのか……」
「馬鹿か!!当たり前だろうが!」
俺は思わず幸村の言葉を遮って、声を荒げた。
「むしろ、必要なのかを気にしてるのは…俺のほうだ。アンタが俺の傍にいてくれても、不安になる…!……アンタがいないと…アンタじゃないと…ダメなんだ……」
一息で言い終えて、俺はフラつきそうになった。先ほど感じていた黒い渦が、一気に流れだしそうになっていたからだ。
幸村は…と目をやると、あろうことか、顔を赤らめて、驚いた目付きで俺を見ていた。
「おい…?」
「ありがとう…政宗殿。…嬉しいでござる」
「嬉しい…?」
疑問ばかり浮かび続ける中、幸村はまた満面の笑みで言った。
「某だけではなく…政宗殿も同じように思ってくれていたことが分かって…本当に嬉しい」
この言葉で。
今までの悩みが、何処かへとんでいって、一気に肩が軽くなった。そんな、気がした。
そして、幸村をぎゅっと抱きしめた。
「……俺も、アンタで良かったぜ」
ありがとう…幸村。

タガイノ本音を分かり
あって、さらに愛は深まっていく。これを俺は十分に理解した。
それ以来、あの黒い渦は、わき上がることはなかった。
 

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