小説〜主〜

□優しい光。
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「政宗殿ーッ、早くこちらへっ!」
「……わかったから、そう急かすなよ」
大きく背の伸びた雑草をかき分けながら、ふたりは夜の河原を歩いていた。 聞こえるのはかすかな虫の声、せせらぎの音、そして二人の足音だけ。静寂は恋仲であるふたりをより特別な雰囲気にさせていた。 しかし、それに緊張してしまっているのか、幸村は政宗からずいぶんと距離をとっていた。
「……せっかくだから手ぐらい繋がせろよ」 
「ん?何か申されましたか?」
「……いや、何でも無ぇよ。……ほら、蛍はもう少し先だぜ?」
「おお!そうであった!」
ごまかしたのには分からなかったようで、幸村は再び歩き出す。
今夜は、ふたりで蛍を見に来たのだ。初夏、この季節の川は蛍の群が見れる。これを幸村と見たいと、政宗から誘ったのであった。
しかし、実際行ってみるとこの距離間。せっかくふたりなのに。政宗は何だか物足りなさを感じていた。
その瞬間。
政宗の視界にチラッと光が入ってきた。
「…これは……」
政宗はスッと目を細め、口元を綻ばせた。
「hey、幸村!こっちに来い!」
呼びかけると幸村は驚いた様子で振り返って、慌てて政宗の方へ走ってくる。
しかし、相変わらず一定の距離感があった。
「な、なんでござるか…?」
「Ah…そこに居ちゃ見えねェよ。……もう少しくっつきな」
「へ?」
政宗は、口を開けてポカンとしている幸村を、自分の側に手繰り寄せた。
しっかりと手をにぎって。
「なっ、な、な……!」
「静かにしな。逃げちまう」
突然のことに騒ぐ幸村の口に、そっと人差し指をあてた。何かいいたげにしていたが、幸村は大人しく黙っていた。政宗はその様子に頷いて、川を見つめた。 幸村その視線を追う。
そこに広がっていたのは。
無数に飛び回る蛍の群れ。
否、光の洪水とでも言うべきか。優しく、儚い光。
それはいつの間にかふたりを包んでいた。
「………なんと……美しい…」
その光景に目を奪われた幸村が感嘆の声をもらす。自然と、繋いだ手に力がこもっていた。その様子を喜びながら、政宗も「綺麗だ」と言って、光の群を見つめる。
そして、繋いでいない方の手を幸村の肩に置き、そっと抱き寄せた。すると、心が安らいだのか、自分から体を預けてきた。 政宗は満足そうに笑って、幸村をもっと、ぎゅっと抱きしめた。
「ありがとな……来てくれて。アンタとこの景色が見れて良かった」
「………それがしも……よかった」
やっぱりまだ照れくさそうに。
それでもさっきより握る手の力は強くて。
言葉が無くても伝えあうことができる。
そう改めて実感したふたりは、穏やかな光に酔いしれた。   
                          <終>

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