Short Story

□動物園は託児所ではありません
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伊佐奈を預かることになりました―


【動物園は託児所ではありません】



それはある日の夕方…
今日も客が一人も来なかった逢魔ヶ刻動物園。
そこに一人の人間…否、シャチが現れた。

「で、何の用じゃ。フカヒレマン」

「サメではない、シャチだ。…明日一日、館長を預かってくれないか?」

「は?ヘルメットマンを?嫌じゃ」

「ニンジン一箱やろう」

「乗った!」

このような取引があり、伊佐奈は一日逢魔ヶ刻動物園に預けられることになった。




そして翌朝。
サカマタは寝ぼけ気味の伊佐奈を頭に乗せてやってきた。
脇にニンジンの詰まった箱を抱えて…

「では頼むぞ」

「任しとけ!」

「うー…ウサギさん?」

「椎名じゃ」

「シーナ…ムニャ」

伊佐奈は椎名に抱き抱えられたまま二度寝した。
もちろん、脇にはニンジンの詰まった箱が抱えられている。

「(でら心配だ…)館長の寝起きには気をつけろ」

「だから任しとけって言っとるじゃろ」

サカマタは不安を胸に動物園を去った。
椎名は事務室に伊佐奈とニンジンの入った箱を持って行った。
伊佐奈はまだスヤスヤと椎名に抱えられながら眠っている。

「こいつは蒼井華に任せりゃいいじゃろ」

と両手で持ち上げようとしたが、伊佐奈は椎名の黒い服をしっかりと掴んで離さない。
椎名は仕方なく伊佐奈を抱えたままにすることにした。
事務室を出ると、華がいた。

「おい、蒼井華。こいつの世話しろ」

「えーと、その子供誰ですか?」

「フカヒレマンが連れてきた」

「まさか…丑三ッ時水族館の館長さん…。そういえば、小さくなっちゃったんだっけ…」

その時、ちょうど伊佐奈が起きた。

「やっと起きたか」

「おはよー、シーナ!」

「シーナじゃない、シイナじゃ」

「シイナ、サカマタは?」

「フカヒレマンならお前預けて帰ったぞ」

「そっかぁ。ねえねえ、遊んで」

「おぉ、いいぞ!」

椎名は華に掃除を任せて伊佐奈を遊びに連れていった。

「小さな子供と何して遊ぶんだろう…」

無理な遊びをしてないか気ががりな華。
椎名を信じて掃除に専念することにした。




椎名は伊佐奈を肩車して、動物園を回っていた。

「あれ何?」

「インドサイの加西じゃ」

「あっちは?」

「ゴマアザラシのイガラシじゃ」

初めて見る動物園なので、始終目をキラキラさせながら伊佐奈は動物園を回った。
最初は伊佐奈の世話を嫌々言っていた椎名も楽しそうにしている。



そして夕方…
今日も客は0だった。

「どうじゃ?楽しかったか?」

「うん!」

椎名はニンジンをくわえて魔力を使い、集まっていた動物を変身させた。
変身した動物達は口々にその子供は誰か聞いた。

「ん?ヘルメットマンじゃ」

「俺ヘルメットマンじゃないもん。伊佐奈だよ」

動物達はその子供が水族館の館長だと分かると椎名に危ないと口々に言い出した。

「何言っとんじゃ。こんな子供がワシに危害を加えるわけないじゃろ。なぁ?」

「うん。俺危ない子じゃないもん!」

そう言って二人は事務室へ消えた。
それを動物達は唖然として見ていた。




そして夜が来た。
真っ暗な空にぼんやりと満月が浮かぶ…

事務室で椎名は驚いていた。
いきなり、子供だった伊佐奈が元の姿に戻ったのだから。

「伊佐奈が大きくなった!」

どうやら夜になる間に名前をきちんと覚えたらしい。

「…今の大人の俺を見てどう思う?」

「相変わらずの仏頂面じゃな」

「……そうか」

思ったような返答を貰えなかった。仲間をさらったとかで怒るかと思った。

「そうしょげるな」

「は?」

意味がわからないと首を傾げる。

「大きくなった伊佐奈もかわいいぞ!」

そう言って抱き着いて頭を撫でてきた。いつの間にかヘルメットは取られている。

「ちょ、やめ…!」

「ほれほれ」

いきなり脇や脇腹をくすぐってきた椎名。

「くすぐったい…!」

「アハハハっ!」

1時間後、伊佐奈はまた子供に戻ってしまった。
大人だった時の記憶はない。

「シイナ、眠い」

「じゃあ寝るか!」

そして二人一緒のベッドで眠った。


翌朝、サカマタが伊佐奈を迎えに来た。
椎名はまた来い、と言って伊佐奈をサカマタに渡した。

「楽しかったですか?」

「うん!」



因みに、伊佐奈を動物園に預けたのは、水族館のイベントで渡すために作ったお菓子やらを勝手に食べてしまうからであった。




end
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春夏様リクエストありがとうございました(^O^)/
館長と園長が仲良くする姿があまり浮かばなかったため、こんな感じになってしまいました…


それでは!



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