Take

□救援信号〜an executor
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救援信号〜an executor





過剰反応では無く通常運転──。


不測の事態とは、当然考慮すべきものである。特に、戦場などと言う命のやり取りを
するならば。
モニターに映し出されたデータに、大きく溜め息を吐きたくなったのは、仕方がない
と諦める。
「進行方向及び退路予測は不能。増援も無理。孤立無援ってかァ?」
本部ベースキャンプにて解析作業をしていたクルルは、眉間に皴を寄せた。
軍の便利屋と、影で言われていそうなケロロ小隊。今回の任務は、地球から少し離れ
た惑星にて、特別後方部隊での仕事。つまり、膠着状態の戦場で暴れて来るのが、彼
らの役割だ。
「…あの人ら…特別任務の内容。覚えてるかねェ」
特別任務の内容は、ほぼ撹乱と言って良いものだが、一点だけが違っていた。必ず敵
の警備データと、構成惑星形状ハードウェアを持ち帰るのを、本部から指定されたの
だ。
警備系統データは、クルルのハッキングで全てを掌握出来るのだが。問題は、構成惑
星形状ハードウェア。こちらは現物が重要だ。
位置は、激戦区の中央。
ハードウェアは、立方体の十角形を成したもの。周りをシールドで守られてはいる
が、そちらは出発前。ドロロにUSBメモリーを渡してある。中に、シールドを外す
為のソフトを入れたものだ。
「…隊長がでしゃばらずにメモリーを刺せたなら、ほぼクリアなんだが…」
モニターに出されたデータは、どう見てもケロロたちには不利な状況を示すだけ。溜
め息を吐き出し、足元に置いていたケースを手に持つ。そのままブースから出ようと
すると、緊急通信。通信兵たちに緊張が走る。
「ケロロ小隊からです。クルル曹長に…」
「何だァ?」
ブースの扉で振り返れば、通信兵の周りには疑問符が散っていた。
「『執行、よろしく』だ、そうですが…」
「…チッ。一分耐えろって伝えときなァ」
翻された白衣は、既に扉によって消え失せた後。


進む事も出来ず、退く事も出来ない今の状況は、最悪でしかない。
「これぞホントの四面楚歌!」
「言ってる場合か!」
「次々来るですよぉー!」
「流石に多いでござる…」
「あ〜!も〜!誰の性だよ!」
「「お前の性だ!!」」
「はぃ…」
「…ははは…」
構成惑星形状ハードウェアは、曹長が当たりを着けた場所にあった。相手の拠点の一
つに、シールドに守られたハードウェアを見付けたのだ。
シールドを解除するには、壁に取り付けられたコントロールパネルに、クルルから渡
されたUSBメモリーを刺さなければならない。
科学者がなぜ、暗殺者にUSBメモリーを渡したのか。その理由をケロロ意外は、嫌
になる程熟知していた。しかし、直前になって小隊長が「我輩がやるであります!」
と言い出し、戦士と格闘家が説得。一悶着の後にシールドを外し、構成惑星形状ハー
ドウェアを持ち出したまでは良かった。
「…あそこで軍曹さんがごねてなきゃ、ボクたち安全に帰れたのに…モモッチとお菓
子食べれたのに!」
黒髪を揺らしながら、敵に当て身を入れて行く様は、一流の格闘家を思わせる。背後
から来た相手を肘鉄で鳩尾に衝撃を加え、そのまま拳を垂直に合わせると、力に任せ
て顎を砕く。
「クルルは、計画を壊されるのを嫌う奴だからな。…全く。晩飯に遅れたらケロロが
悪い」
夏美への言い訳を考えとけ──と、溜め息を吐く。
赤の髪に鋭い眸は、威嚇には充分だろう。転送した銃で、敵の急所を的確に撃ち抜い
て行く。前に進む為、大きめの大砲を出すと、有無を言わさず火力を増した。
「えぇ〜!我輩なの?!ドロロが大人しくUSBメモリーを我輩に渡しとけば…」
両手八本のダーツナイフを器用に操り、複数の敵を葬る。その殆どは、首の頸動脈を
違う事無く貫くのだ。
狙いは正確。
ただ、緑の髪と浮かべる表情は、乾いた戦場には不釣り合いと言って良い。
「貴様に渡せば、辿り着くまでに絶対落とすだろ!」
「そう言う所は、絶対外さない軍曹さんですからぁ〜」
「あー!ひっでぇー!」
「みんな、落ち着いてよ…」
素早い動きを得意とし、風の様に敵の間をすり抜ける。靡く髪は、青の軌跡を描く。
戦場において、その青は恐怖と同意語なのかもしれない。一瞬にして引かれた線は、
敵を簡単に伏して行く。
耳に馴染んだ音に、いち早く反応する。
「隊長殿!」
「ケロ?あ、来た?」
墜落するが如く、見知ったソーサーバイクが突っ込んで来た。
咄嗟に避けると、小さなクレーターが出来上がる。煙を上げるそれに、人影は無い。
敵も驚いたのだろう。警戒しつつ、ケロロたちの間合いを図る。
「よォ、ハードウェアは?」
黒の薄手のコートに、変形した軍服。金に近い髪は襟足で遊び、手にはケースを持っ
た参謀が笑う。
執行発動中の為か。爪先がダークブーツで、宙に浮いている。
「クルル曹長!」
「回収は完了している」
「んーで?どーしてこうなったんだァ?」
「推して知るべしでござる…」
「クルル先輩の想像通りですぅ」
クルルとて解ってはいるが、ここまで予測通りの事をする人物も珍しい。もはや、溜
め息さえも出て来なくなる。
肩を竦めつつも、敵が動くのを視界の片隅で捉えた。取り出した手榴弾を投げれば、
それをギロロが撃ち抜く。
背後から来るものには、左足を軸にして時計回りで右から蹴りを入れ、両足が揃った
瞬間に前から来た敵を蹴り上げた。後ろに反らした体を両手で支えると、そのまま体
に回転を入れて敵を蹴散らす。
「相変わらず、容赦無いでありますなぁ〜」
「明日は我が身──って、知ってるかィ?」
喉の奥で笑うクルルに、ケロロは背筋が凍る。
「おい!状況の打開策はあるのか!?」
「このままでは、持たないでござる…」
「全員、落ちたソーサーバイクの所へ行きな」
言われて、全員がバイクへと走りだす。クルルは、ケースから小さなキューブを取り
出した。同時に転送したものは、指差し棒。
「オペレーションスピリットブレイク!」
円柱の光が、先程出来たクレーターを囲む。敵を寄せ付けないシールドの代わりだ。
キューブの起動スイッチを押すと、それは手を離れ上昇した。ある一定の地点で停止
すると、菱形に形状を変化させる。
「伏せてなァ」
頭を守る様に体を伏せれば、一瞬。重力負荷が掛かった。
体に掛かる重さが戻ると、頭を上げる。シールドは消え失せており。目の前には白衣
に戻した科学者と、重力に圧迫されたらしき敵だったもの。
「…使用者にも負担が掛かるのが欠点かねェ〜」
誰しも、巻き添えは御免だ──と、心中にて呟いた。


助けられた気がしないのは──。














〜fin〜

小隊。軍内部の便利屋へ。




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HAL様のところで90000hit企画をやっていたので、恐れ多くも参加して書いていただきました!
HAL様宅のクルル曹長はとにかくカッコイイんです…!

HAL様ありがとうございました!



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