イノセント・エイジ
□2.家族という名の他人
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下腹がしぼられるように痛む。
友人たちから離れて、麻里は一人トイレに入った。
案の定、ぬるりとした感触のあと、血液が流れ落ちた。
「来た……」
持ってきていたナプキンで手当てをする。
制服を整え、水を流す。
今月も子宮が正常に機能し空っぽなことが証明された。
(身体の中の要らないものが出て行くんだ、生理って)
だったら義母への感情も一緒に流れていけば、もう少し楽になるのに。
もう一度、水を流すと麻里は個室から出た。
トイレから出ると春美がいた。
「春美……」
「話…あんだけど」
「何?」
いつものどこか冗談まじりに話す彼女とは違って見えた。
歩き出した春美のあとに麻里はついて行った。
「あんたさ、由紀子には話すけどあたしには何も言ってくれないんだね」
「えっ。何が……?」
春美とは、顔をあわせれば話ぐらいする。
放課や移動教室のときなど比較的一緒にはいるが、どちらかと言えば、気がつけば自分の横に来ているといった感じだ。
麻里はそれぐらいにしか思っていない。
由紀子も、麻里は春美と大差ないと思っている。
たまたま父の再婚話をしただけで、それまでは放課後に一緒に行動することすらなかった。
級友の存在など、その程度の意識。
強いてあげれば話す回数の多い人間。
「あたしは麻里のこと親友だと思っているのに」
春美に言われて、自分の感覚のズレを感じた。
一緒にいるから、話すから親友というのだろうか。
だとしたら、春美も由紀子も確かに麻里の「親友」だ。
「そんなことないよ、春美。私だって春美のこと親友だと思っているよ」
同世代の少女の感覚に合わせて「親友」という言葉を使った。
「本当!?」
とたんに春美の顔が嬉しそうに変わる。
「良かった。麻里って由紀子とばかり話してるし、由紀子ってあたしが麻里と話すとイヤそうな顔するし」
だったら昨日、アクセサリー屋での態度は何だと言いたかった。
「気のせいだよ」
それでも麻里は春美に言った。
彼女は目の前の興味あることに惹かれる。
そして、「仲間外れ」にされるのを恐れる。
この年頃はどこかのグループに入っていないと不安で仕方がないのだ。