イノセント・エイジ
□1.父の存在
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「春美には聞いてないよ。私は麻里に聞いてんだから」
「イイじゃん。あ、麻里、家に帰んなくていいの?」
そういえば、とこれまでクラスで一番早く教室から消えていた級友がまだいることに、今気づいたように言った。
「いいの、いいの。これからは。ね?」
時間の使い方にまだ慣れていない麻里の代わりに、今度は由紀子が春美に答える。
「なら行こうよ。今日から三日間、オープン記念だって」
「ん…じゃ、行こかな」
真っ直ぐ下校することと校則にはあったが、通学路に駅前の商店街が入っているため、みんな羽目を外さない程度に寄り道をする。
目立つことをすれば制服のもと、学校に連絡が入るからだ。
「じゃあ決まりね」
「ああ、もう。麻里、そんなの置いてけばイイじゃん」
「え…でも……」
教科書を手にしていた麻里に春美が言う。
「教科書なんて重いだけだよ」
駅前ビルのテナントとして入っていたアクセサリー屋は立地条件もあって賑わっていた。
店内にいる客のほとんどが麻里たちと同じくらいの中学生や高校生。
これは時間帯のせいだろう。
「あ、これカワイイ〜」
「え、なに?」
春美の声に由紀子がその手元を覗きこむ。
つられて麻里も目を遣った。
小さな銀製のテディベアのイヤリング。
いや、ピアスがてのひらの上に乗っていた。
「これ買っちゃおうかな」
「えー、春美。これピアスじゃん」
「へっへー実はほら」
春美が頬にかかっていた髪を耳にかける。
「あー空けたんだ。イイなー」
羨ましがる由紀子に麻里は違うことを思った。
どうもこういう会話に馴染めない。
自分は彼女たちとは違う人種なのだろうか。
「私も穴空けたいな。痛くないの?」
「ううんゼンゼン。ピアッサー使ってね、プチンって」
「えーヤダー、いたそー」
ピアッサーとは簡単に自分で穴が空けられるという器具だ。
それぐらいは麻里も知っている。
実際手にしたことはないが、ホッチキスのような要領で、ピアスホールが出来、その穴にピアスが収まる。あとの手当てさえ、きちんとしておけば、病院に行かずとも手軽に穴を空けられる。
「ゼンゼン大丈夫よー。あっという間だって。それにカレシにやってもらったんだー」
「なんだ、なんだ? カレシだと?」
「あ、ねぇねぇ。こっちもカワイイよ〜」
会話が麻里を素通りしていく。